†カカベジ†
□小悪魔なキミ
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『そんなにそれが気になるの?だったらあげるわよ。ちょうどあたしもデータ取りたかったしね』
「ふざけるな!そんな餓鬼みたいな真似をこの俺様がするわけないだろう」
それは計算から導き出されていた答えそのままだった。分かってはいたものの、ここまであからさまに否定されると気分が落ち込んでくる。
しかし、そんな事では諦めないのが孫悟空という男なのだ。
「なんでだ?なんでやりたくねぇんだ?」
「ふん、やりたくない以外に理由があると思うのか?帰れ。俺様は今読書で忙しいんだ」
「本なんかいつでも見れっだろ?なぁ、トランプしようぜベジータぁ」
「黙れ。貴様の馬鹿息子と仲良くやってやがれ」
「オラはベジータとやりたいんだ!」
ぐい、とソファーに寝転んでいるベジータの淡い桃色のシャツを引っ張った。ベジータは舌打ちして悟空の手をはたき落とす。しかし負けじと悟空はベジータを見つめた。
その攻防が続いて約一時間。折れたのは…
「ふん!貴様も相変わらずしつこい野郎だぜ!いいだろう、貴様を叩きのめしてやる」
「やった!ベジータサンキュー!」
歓喜余った悟空は抱きつこうとして額に鈍い痛みが走った。うずくまる悟空の横でバサッと音がした。ベジータの投げた本だ。
「ベジータぁ、角は痛いぜ」
「ふん」
「まぁいいか!トランプトランプっと」
その時、悟空は気づいていなかった。
ベジータの口許が僅かにゆるんでいたことを。
「…ありえんっ!」
べしんっと床に叩きつけられたトランプが宙を舞う。ひらひらひらひら、これが何かの花だったりしたら美しかっただろうに。
悟空は内心でため息を尽きながら、目の前で怒りのあまり真っ赤でぷるぷる震えているベジータを見た。
「貴様!なんかインチキしやがったな!?」
「なんでだよ!オラはインチキなんかしてねぇぞ!」
「ならなぜ!このベジータ様がバカロット、貴様なんかに負……けるのだっ!」
よほど認めたくないのかベジータは口をもごもごさせる。その動作がいちいち可愛らしくて悟空は胸を弾ませた。が、それを口に出せば後で怒りが飛んでくるので黙っている。
「もう一回だカカロット!」
「またぁ?おめぇこれで三回目だぞ?」
「うるさい!さっさと始めやがれ!」
がさがさと荒々しくトランプを集めるベジータを見つめながら、悟空は懐に入れている小瓶にさりげなく指先で触れた。とぷん、と桃色の液が小瓶の中で揺れる。今が、絶好の好機だ。
「なぁベジータぁ、今度は罰ゲームもしようぜ?」
「罰ゲームだと?」
「そうだなぁ、負けた方は勝った方のお願いを一個聞くってのはどうだ?」
「…面白い、いいだろう」
ベジータが口端をにやりと上げる。魅惑的な笑みに悟空の胸は激しく動機した。
今すぐその唇を塞いで、強気な言葉ばかり吐いてしまう口から甘い吐息を吐かせたい。そして淡い桃色のシャツに手を滑らせて柔肌に触れて…。
「おいカカロット、貴様の番だ。さっさとしやがれ!」
「え!?あ、すまねぇすまねぇ」
ベジータの手札から一枚をおそるおそる抜いた。ダイヤのエースだ、ジョーカーじゃない。内心で大きくガッツポーズを決めた。そして悟空は勢いよく手札を床に落とした。
「あっがりぃぃ!」
「くっ…!」
「約束だぞベジータ!罰ゲーム罰ゲーム!」
「くそったれめっ…!今日こそ貴様を殺せると思ったのに…っ」
「…オ、オラ本当に勝ってよかった」
ベジータは悔しさにぎりぎりと歯を鳴らした。その様子から見るに本気だったのだろうと分かる。悟空は心から安堵した。
そして、にんまりと笑いベジータの前に小瓶をぶらさげた。
「なんだこれは」
「よく分かんねぇ」
「…貴様、俺を馬鹿にしてやがるのか?」
「違う違う!でもほら、すげぇ珍しい酒らしいんだっ」
「…ふん。まぁいい、さっさとソイツを寄越しやがれ」
強引な手つきで悟空の手から小瓶を奪ったベジータは一瞬迷ったあと、勢いよくそれを飲み干した。ごくり、と喉が上下する。
悟空は空き瓶を確認すると恐る恐るベジータに声をかけた。
「ベジータ…?」
「…ふん、なんだこの甘ったるいものは」
「な、なんともないんか?」
「なんだ。毒でもいれてやがったのか?」
くす、とベジータが空き瓶を指先でふらふらと振った。酔っている様子は微塵の欠片も見えない。当たり前といえば当たり前なのだが…。
なぜなら、あの液体の効能は。
「なぁベジータ、1つ聞いてもいいか?」
「なんだ」
「オラの事、好きか?」
「…馬鹿か貴様は」
その声音がいつものように罵倒するものではなく、妙に甘ったるい気がして悟空は目を見開いた。すると悟空の視界が真っ暗になったかと思うと、自分がベジータに抱き締められている事に気が付いた。
悟空は顔に熱が集中するのを感じていた。どうしたらいいのか分からず、悟空の両手は空を描いている。
「ベ、ベジー…っ!」
「俺様が好きでもない奴といるわけがないだろう、くそったれめ」
「っ!」
「貴様だけだ、カカロット…」
視界が明るくなったかと思うと唇に触れた熱くて柔らかな感触。悟空はびしり、と固まった。ベジータの勝ち誇ったような笑顔だけが鮮明に視界に映える。
すると、悟空に乗っていた体重がふいに遠ざかった。ベジータが退いたのだ。へたり、と床に座ったままの悟空をベジータが見下ろす。
「いつまでボケてやがるバカロット」
「え?!あ、ベジータ、おめぇ…っ」
「俺様は喉が渇いた。さっさと飲み物持ってきやが、れっ!」
「うぉっ!?」
ベジータは廊下へと悟空を蹴りだすと勢いよく扉を閉めた。しばらく戸口に立ち、足音が遠ざかるのを確認してから、ベジータはベッドへと歩み倒れた。
シーツへと押し付けた横顔は床に転がる小瓶を見ている。ふいに、ベジータがふっと笑った。
「甘いな、カカロット。この俺様が貴様の考えぐらい読み通せんと思ったか」
飲み干した液体、あれはベジータの過去の記憶によれば妻が趣味で造った「人を素直にさせる薬」のはずだ。だが日々、不本意ながらもブルマに検体とされている為か当然ながら抗体というものが出来てくる。
だから正直いって、先程の薬は効いていない。ベジータは先程の慌てた悟空の顔を思い出しながら肩を震わせた。
「本当に罰ゲームを受けたのは貴様だったな、カカロット」
アトガキ
「カカベジで罰ゲーム」という素敵なリクエストをかず壱様から戴いて、遅くなったわりにはこんなにクオリティー低くていいのかと泣きたくなりました。
今回はベジさんが一枚上手で小悪魔でした(笑)やられたね悟空さん。
こんなんでよかったら煮るなり焼くなり持ち帰り捨てるなり好きになさって下さいませ!
ではかず壱様フリリクありがとうございました!!!
2010/08/08