†イナイレ†

□cry cry smile
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帝国が負けたって聞いた時、俺の頭の中で赤いマントが闇へと翻った。



心配になって来てみれば、やっぱり鬼道は帝国学園グラウンドに突っ立ってた。覇気を感じられなくて別人だと最初は思ったけれど、特徴的なゴーグルにドレッドヘアは見間違えようにも見間違えることはない。

「よう円堂、笑いにきたのか…?」

いつもみたいに自信に満ち溢れた笑顔とは違う、今にも崩れて泣きそうな無理やりな笑顔。
下手な事を言ったら鬼道の何かが壊れてしまいそうで、俺の喉は一瞬震えた。だけどそれじゃあ駄目なんだって分かっていたから。

「そんなわけねぇだろ!」

俺の頭を回転させて、なんとか鬼道をグラウンドから連れ出す事に成功した。けれど道中上手い言葉も見つからず、知らず知らず鬼道の家に着いてしまった。

初めての鬼道の部屋は、広くてなんだか寂しい感じがした。
その部屋で聞かされた鬼道の過去。
話を聞いてるうちに(こいつも俺と同じなんだ。サッカーが大好きなんだ)って思った。
素直にそう言ったら、鬼道はびっくりしてたけど。

「お前と…同じ、か」

「なんだよ、嫌なのか?」

「いや」

そういって鬼道は少し、ほんのりと笑ってくれた。俺はそれがシュートが決まったくらい嬉しくて、ずっと見ていたいと思った。
心からの笑みを見てみたいって。
そう思ったら知らず知らずに口が開いてた。

「なあ!今日鬼道ん家に泊まってもいい?」

「俺の?」

「そう!二人で一緒にサッカーの話したりさ!」

「一日中か?お前は相変わらずのサッカー馬鹿だな。…だが悪くない」

「じゃあいいの?!」

「ああ。今日は父さんは帰宅しないしな。しかし円堂、着替えはどうするんだ?連絡だってまだいれてないんだろう」

「あ!いっけねぇそうだよな。じゃあ俺一回帰って用意してくる!」

明るい会話にほっとした俺はすっと立ち上がろうとして、何かに引っ張られてバランスを崩しそうになる。視線を下げれば俺の服の裾を鬼道が引っ張っていた。
え、なんなんだこの状況。

振り返ってゴーグル越しに見た鬼道の目は今にも泣きそうだった。ふいに、さっき聞いた鬼道の声が頭に響く。

『俺の目の前で、仲間が…っ』

「…っ」

そうだ、鬼道は今すごく不安定なんだ。明るくなれるはずなんてないじゃないか。
ノーマークの学校に自分が戦えないまま仲間をやられて、目の前でそれを目の当たりにして。
ああだから本当は鬼道は今…。

「鬼道」

「!わ、悪い。何をしているんだろうな、俺は」

苦笑と供に掴んでいた右手が離される。俺は咄嗟に鬼道の右手を掴んで自分へと引き寄せていた。鬼道の体は細くてすっぽりと胸に収まる。耳元で息を呑む気配がした。

「鬼道、泣いていいんだ」

「な、にを」

「本当は辛いんだよな。無理して笑ってる」

「ちが…」

否定する鬼道が痛々しくて俺はより腕に力を込めた。触れたところから俺の気持ちが伝わればいいのに。

「鬼道…」

ゴーグルを左手で外してやれば、熟れた赤い瞳は涙で濡れていた。ゴーグルの縁に溜まって涙が頬を伝わなかっただけなんだ。
本当はもう一杯一杯なのに、まだ無理してる。

「なぁ俺どうしたらいいかな」

「なにがだ」

「どうしたら鬼道は甘えてくれる?」

「円…」

「鬼道、俺は鬼道に無理してほしくない。泣きたい時は泣いていいんだ。悔しい時は悔しがっていいんだ。だから、だからさ」

言葉が上手く見つからなくてもどかしい。すると躊躇いがちに鬼道の指が俺の頬に触れたから一瞬ドキリとする。

「相変わらず変わった奴だなお前は。…なぜお前が泣いているんだ?円堂」

「えっ?俺泣い…?」

「泣いている」

「鬼道が意地っ張りだからだ」

「…ふ、なんだそれは」

鬼道が笑う。無理に作った笑みなんかじゃなくて心からの笑みだった。
それがあまりにも至近距離だったから、胸がどきどきと高鳴った。
どうしたらいいのか分からなくて焦っていたら、鬼道の頭が俺の胸にとんと乗る。

「全く…お前は、どうしてそんなに」

「鬼道」

「…悔しかったんだ」

ぽつり、と呟かれる小さな言葉に俺は耳を済ました。

「雷門中に負けた悔しさなんてもんじゃない。…仲間を目の前で潰されて、満足に帝国のサッカーも出来なくて、…ふ、影山がいなくなった瞬間この様かとな」

「鬼道!影山は!」

「関係ないと、言うんだろう円堂」

「だって帝国は強いんだ!それは俺達が知ってる」

「…ありがとう。だが、結果は負けた。40年間無敗だった帝国が…っ!あんな、あんな形で…っ!」

鬼道の肩が震えて嗚咽が漏れる。

「源田も佐久間も…っ!皆、やられていく、なか…っ!俺は何も出来なかったっ…!」

ぎり、と握りしめられた拳が白くなっている。
本当に悔しかったんだ。悔しくて辛くて、でもどうすることもできなくて。

「鬼道、お前のせいじゃない」

鬼道の背中を優しく撫でてゆっくりと言う。はっとしたような鬼道の迷子のような赤い瞳が俺を見上げてくる。

「鬼道のせいじゃないさ」

「円、堂…」

「鬼道も帝国の皆も最後まで頑張ったんだろ?なら鬼道達は悪くない」

「っ」

「だからもう責めるなよ鬼道」

「円、」

「大丈夫だって!世宇子中は俺達が絶対倒す!!」

にっと俺は笑う。つられるようにして鬼道も笑った。でもすぐにそれは曇ってしまう。

「だが、もしお前達まで俺達のようになってしまったら」

「大丈夫だ鬼道。俺達の実力は帝国が分かってるだろ?」

「…ああそうだな。諦めの悪さ、それがお前達の強さだな」

「ああ!…だからさ、鬼道。この大会が終わったらまた」


『サッカーしようぜ!』


鬼道は驚いたように瞬きした後、ふっと微笑み…


「ああ」



アトガキ
初円鬼…クオリティ低っ!
しかもなんだが互いににまだ無自覚なのにハグとかイチャコラ(笑)
すみません、とりあえず初っぱなはやはり『鬼道の決意』から書きたかったんです。
ちなみにこのあと二人は互いに抱き合ってるのをみて「!!!!」となる予定。

2010/06/14

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