†イナイレ†
□キミの温もり
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「…っ」
シーツを頭から全身にかけて被り、耳を両手で塞いで瞼をぎゅっと閉じる。そうしてあらゆる世界を拒絶し遮断する。
何も考えたくない、感じたくない、もう十分だ。これ以上は、おかしくなってしまう。
『鬼道…』
「っ!」
そんなはずがないのに、頭の中をあの人の声が駆け巡る。逃がさないと言われているみたいで身の毛がよだった。そして、未だにあの人に囚われている自分に吐き気がした。
『還ってこい…私の元へ』
「嫌だ!止めろっ…!止めてくれっ!」
『我が最高の作品よ…』
神経が麻痺しているのか、ふいに頬を撫でられた感覚が走る。俺はびくっと目を見開いてばっとシーツを除けて起き上がった。そして、絶望した。
「影、山…」
『そんなに私が恋しいか?』
それが幻影だと理解している。月光に照らされる影山は月が産み出した幻覚なのだと。なのに縫い付けられたように動けない。冷や汗が体中から吹き出てくる。声が、喉の奥で絡まった。
『私の幻覚をみるほどに』
一歩、また一歩と幻覚が俺に歩み寄ってくる。呼吸が出来ない。恐怖のあまり呼吸の仕方さえ忘れてしまったようだ。
来るな!寄るな!止めてくれ!
『諦めて還って来い鬼道…。お前は私から逃れられないのだ』
幻覚が俺の頬に触れた。ぞくりと嫌悪感が体を巡り狂った。ふと、俺の頭を掠めたのは太陽のような笑顔を持つ…。
「鬼道!」
「っ、…ぁ」
ぐい、と抱き締められた強さと嗅ぎ慣れた汗の匂いに現実へと戻される。待ちわびていた助けに涙腺が緩む。激しく鼓動する胸を落ち着かせる為に深呼吸を繰り返した。それを手伝うかのように、円堂の手が背中を優しく撫でた。
「しっかりしろ!鬼道!」
「円、堂」
「大丈夫だ、俺が側にいるからっ。大丈夫だ鬼道っ」
ぎゅう…っと優しい抱擁は俺の精神を落ち着けさせた。気付けば影山の幻覚はない。ふと、円堂が遠退く。どうかしたのだろうか。
見つめていると、円堂が真剣な顔をして急に俺のゴーグルを外した。瞬間、俺の頬を伝ったのは暖かな涙だった。そうか、俺は泣いていたのか。
「円堂、お前…」
「あ、ごめんっ!俺臭いよなっ!さっきまで自主練してたからっ」
あわあわと赤面して慌てる円堂に無意識に苦笑した。
お前は、本当に不思議な奴だ。暗雲を切り裂く太陽の光のように、俺の闇をばっさりと祓いのける。
「円堂…」
「鬼ど…うわっ?!」
円堂の首に腕を回して思いっきり引き寄せた。バランスを崩した円堂が俺を押し倒す。至近距離に胸を高鳴らせながら、俺はすんっと円堂の首筋に顔を寄せた。
「お前の匂いは、やはり安心するな」
「鬼道の匂いもいい匂いだぜ?」
互いにほんのり赤く染まった顔を見合わせてくすくす笑う。
円堂、俺はお前がいてくれる限りまだ堕ちない。お前がいてくれるから前を向いていける。
「円堂、」
触れた唇から伝わる甘い気持ちに蕩けそうになる。じん、と目頭が熱くなった。
泣きたくなる程切なくて、幸せで。太陽を独占してしまっている罪悪感に胸が軋み愉悦を感じる。
自分がここまで矛盾している事に気付かせたのは、円堂だった。
「鬼道っ、好きだ…っ」
「俺もだ」
神様なんて、もう子供の時のように純粋に信じているわけじゃない。
だが、太陽を独占している罰を受けるというのなら甘んじて受けようと思う。
だから、だから今だけ、この時だけは。
「お前が、好きなんだ…っ。円堂っ」
お前で心身の全てを、何もかも分からなくなるまで、円堂守という少年で満たしてほしい。
「俺もだよ、鬼道」
アトガキ
アニイレとゲムイレを見て思い付いた妄想文。ミスターKと会った日の夜(ここはゲーム設定)は絶対うなされてるよね。ね!
そこに夫がやってくるんだよね!ね!←
本当はもう少し卑猥にしたかったんですが(笑)
2010/08/08