†@ラス†

□紫苑
1ページ/1ページ

瞼を閉じれば、巡るのは穏やかな過去。
瞼を開ければ、逃避は許されない現実。



「…吾!起きてよ圭吾っ!」

「ん…、ピクシー?」

「やっと起きたぁ!もうっ、オベリスクからアサクサに帰ってきてそのまま寝ちゃうんだからっ」

「ごめん」

寝起きでぼんやりした頭を必死に起こしながら、圭吾は目の前でくるくる表情を変える仲魔を見つめる。そして徐々に鮮明になる思考でオベリスクで起きていた事象を思い出した。

逢った…、高尾さんと。

彼女自身は受胎前と変わりなく…いや、それは間違いだ。憔悴しきった彼女は憐憫さえ浮かぶ程だったのだから。
ふと、彼女の安否を気にかけていた必死な声が脳裏を過ぎる。


『頼むよ!祐子先生をお前が助けてくれっ!』

『もう祐子先生とかお前を…アテにしねぇよ』


受胎が変えてしまい、冷たい瞳を持つようになった勇。そんな彼を目の当たりにした時、圭吾は正直戸惑ってしまった。

自分の知らない勇がいる。…いや、もしかしたら自分が見えていなかっただけで本当の勇の姿はアレなのかもしれない。
自分がこの世界で新たに知った自分がいたように、知らなかっただけかもしれない。

「圭吾?」

「…あ、ごめん」

「どうかしたの?具合悪い?泉に行く?」

「いや、大丈夫だから」

「でも」

「主は身体を患ってはいないのだよ」

「…スカアハ」

突如圭吾の隣にパッと顕れたのは仲魔のスカアハである。スカアハは意味深に微笑みながらピクシーの頭を撫でた。

「主の患い箇所は主がよく分かっているはずだ」

「えっ?だって今身体は病気じゃないって」

「そうだ。…まだ子供には分からぬだろうがな」

「むぅ!…まっ、いいわ!圭吾が病気じゃないんならね!あたしそろそろストックに戻ろうっと」

ピクシーはくるんっと宙返りすると、まるでマジックの様に消えた。圭吾は(ストックに戻ったのか)とふと思いながらスカアハを見上げる。

「戻らなくていいのか」

「戻ってほしいのか?」

「別に俺は構わないけど」

「…なぁ主、汝はどんなコトワリを望む?」

「急になんだ」

「いや?興味本意だ」

「…俺は」


どんな世界を誕生させたいのかと聞かれれば、受胎前の世界が1番いいと圭吾は思った。家族がいて高尾さんがいて千晶や勇や友達が生きていた世界。
だけど、賛同してあげたい世界は勇の…。

「主?」

「俺にはまだ分からない」

「そうか。…だが主よ、それは迷い所以の逃げだ」

「!」

「理性で行動した方が良いと理解する反面、心が本能に従えと語りかけている」

「俺は、スカアハに読心術のスキルなんて覚えさせてないけど」

スカアハは含み笑いを浮かべると懐からある物を取り出して圭吾に渡した。それを見た圭吾は軽く目を見開いた。

「紫苑の花」

「幻術だがね。主の今の心には当て嵌まるだろう?」

「スカアハ…」

「主、我らはどんな世界を主が望もうと従う事に変わりなどない。…しかし我らを従うなら心を定めよ。弱き闇などではなく、強き闇を持ち道を切り開け」

「ああ」

スカアハは最後に「汝は人修羅なのだから」と付け加えるとストックに自ら戻った。
残されたのは圭吾と幻術から作られた悲しげに咲く紫苑。圭吾は紫苑を見つめながら、とある出来事を思い出す。


『なぁ圭吾!お前こいつの花言葉って分かる?』


それは確か学校の昼休みだったと記憶している。弁当を広げて食べようとしていた圭吾の目の前にひょいっと出されたのは赤いチューリップだった。

「一応よく聞くから分かる。どうして?」

「いや俺さぁ、これを二年の園芸部の可愛い子に貰っちゃって。これあたしの気持ちですって一生懸命だったんだぜ!」

「へぇ」

「まぁでもやっぱり1番は祐子先生だな。あの子も可愛かったんだけどさぁ」

目の前で恒例となる高尾さん溺愛話を切り出される前に、と圭吾は「愛の告白」と呟いた。すると勇は怪訝な顔をして圭吾を見る。

「何お前、いきなり何言ってるわけ?」

「勇が聞いたんだろ。チューリップの花言葉」

「あっ。成る程ね、愛の告白か」

「勇、どうするつもり」

「お前なぁ、俺が高尾さん一途だって分かってるだろ?もちろんお断りに行きます。おーこーとーわーり!そして今度は赤いチューリップを俺が高尾さんに渡す!」

「勇」

興奮覚めやらぬ勇に圭吾は箸を置いて至極真面目に言った。

「俺には?」

「……は?」

「俺にはくれないのか?勇のチューリップ」

「ばっ…!お前ここ公共の場だぞ!」

「学校じゃなければいいのか?」

「馬鹿っ違う!そうじゃなくて…あーもう!いいよやるやる!やればいいんだろ!?勇様が圭吾クンにくれてやるよ!」

「やけくそだな」

「うるせぇ!…そのかわりお前も忘れんなよな」

「なにを?」

「チューリップ!!」

勇が顔を赤くしながらじとっと圭吾を睨む。素直に欲しいと言えばいいのにと思いながら圭吾は苦笑する。

「じゃあ俺はチューリップ以外の花を用意する」

「なに?どんなのよ」

「秘密」

「はぁ?!なんだよそれっ、おい圭吾っ」

「図書室に花言葉の本あったかな…」

「おい話勝手に進めるなよな!圭吾っ」



瞼の裏で楽しかった日々が泡のように弾けた。

「確か」

紫苑の花言葉は…と考えて圭吾は目を見開いた。そして何故この花を渡されたのか理解する。


「勇…っ」


【追憶・遠い人を想う】


悲しげな紫苑の花は、圭吾の手に抱かれて眠っていた。




アトガキ
初主勇です。R18ではなくグロでもなく、ただ独白もどきな主を書きたかった。
書いているうちに色々と妄想して結果スカアハさんやらピクシーやら花言葉やら出てきました。
スカアハさんは姐御肌だといい。さりげなく優しい姉さん。ピクシーはもう癒し系です。

とりあえず主は些細な出来事で過去やらなんやら思い出していればいいと思います。

そして勇。祐子先生にも主にも真っ赤な可愛い顔でチューリップ渡せばいいと(
主がなんの花を渡したかは読者様のお好きなように(笑)

…はい、なんやかんやでまだ慣れてないです。はふぅ(・_・、)

2010/03/23

 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ