†良限†
□だって君を僕は!
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正直言って、一般的な男子中学生なのだからそういう事を考えた事がないと言えば嘘になる。
勿論。無理強い等したくないし、ヤるなら両者合意の上でヤりたい。
相手は説明なくとも分かるだろうが恋情を向けている恋人で。
良守の場合それが恋人ではなく、更には同性であり、さらにさらに言えば仕事仲間である。
しかしながら、そんな事で諦めがつくような物分かりのいい性格を良守はしていない。
昨夜、恋敵とも言える兄から片思いの相手…志々尾限の驚愕なる過去を知り、拳を交えてストレートに自分の気持ちをぶつけたのだ。
『俺はお前を信じる!』
『お前が必要なんだ!』
で、只今限は墨村家で入浴中なのである。
多少、いやかなり心を開いてくれた限を良守が呼んだのだ。父の接待にどうしたらいいのか困惑していたようだが。
最初風呂を嫌がっていた限に「一緒に入る?」と言えば「馬鹿かお前」と一喝された。結構本気だった良守がいじけたのは言うまでもない。しかし…
「ふふふ!甘いな志々尾!」
あんな事で諦めてたまるか!俺の辞書に諦めるなんて言葉はないのだ!
何故こんなに自分が必死に変態化しているのか理由は分かっている。
亜十羅に嫉妬しているのだ。
嫉妬するのは場違いなのかもしれない。
自分は恋人ではないのだから。
だけどやっぱりしてしまうのは仕方ない。
だからあくまで普通に。
湯煙で扉から向こうの浴室は見えないが、シャワーの音がしているので多分すぐ側にいるのだろう。
ごくり、と生唾が喉を流れる。
「俺はシャンプーの入れ替えにきただけ、入れ替えにきただけ」
自己暗示をかけて良守は勢いよく扉を開けた。ぶわっと熱気が一気に良守を包むので一瞬瞼を閉じる。
それはよく考えてみれば分かることだった。
気配に敏感な限が、あんな至近距離で良守に気付かないわけがない。
なのに、
「志々尾!」
そこには浴槽に背をもたれ掛けてぐったりしている限がいた。良守が彼に飛び付けたのはパニックと彼の腰にタオルが巻かれていたからだろう。
「おい志々尾!」
頬をぺちぺちと叩くが彼の瞼は閉じられたままだ。良守は出っ放しになっているシャワーの熱湯を冷水に替えて勢いよく限に頭からかける。反動で自分もびしょびしょだが気にしない。
「おい!」
「…ん、墨…村?」
意識を取り戻したのか、限の三百眼が覗いた。良守はほっと一息をつくとシャワーを止める。そして…
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
「何騒いで…、!?」
勿論ながら落ち着いた途端に視界が広がって入ってきたのは、ほんのり上気した浅黒い肌と無駄なくしまったしなやか体躯。彼を戒めるはずの炎呪印すら艶めかしい入れ墨のようだ。
むろん、好きな奴の体なら尚更色気は増すもので。
ばっと彼に背を向けて、限の下を見なかったのは流石にこれ以上の刺激には耐えられないと無意識の判断だったのだろう。
「悪い!その、見るつもりとかなくて!」
「別に気にしてない」
「あ、あのさ、大丈夫か?風呂苦手なんだろ?匂いとか酔ったのか?」
「俺は鼻が効くからな。でも、それは理由じゃない。ところでお前、何で後ろ向いてんだよ?」
「え!いや別に何にもないぜ!はーっはっは!」
「…コイツか」
それが何を示したのかは声音だけで分かる。多分限が言ったのは『炎呪印』の事なのだろう。
だがそれは激しく誤解している。
それを伝える為にはちゃんと相手に向き合わないと失礼だと分かっているのだ。だから、良守はゆっくりと限に向き直った。
「それ違うからな。誤解してんじゃねぇよ」
「…なら、なんで背を向けてたんだよ」
「そ、れは…!」
言えないというよりも言いたくない。
だがこのままでは確実にいざこざが出来てしまう。それは回避したい。
言ってしまおうか。
そう決心してみるはいいがなかなか口に出ない。だが男なら此処は勝負するしかない!言ってやろう!言ってやろうじゃないか!
「あのさっ、すっごい場違いなのは自覚してんだけどさ」
「?」
「俺、お前が…!」
それは何かの漫画のようにばっちりのタイミングで。
ブーブーブー。
「…電話出てぇんだけど」
「ドウゾ」
すっと立ち上がり隣を行く限の背中を見つめて良守は心の中で(クソ兄貴クソ兄貴クソ兄貴!)と泣きながら連呼した。
「おい」
「…」
「おい」
「…」
「おい墨村!」
「……」
風呂上がりに良守の部屋へと招かれた限は困惑していた。何しろ、招いた本人がさっきから体育座りで結界から出て来ない。しかもさっきから「クソ兄貴クソ兄貴」と連呼している。はっきり言って妖より不気味だ。
「…おい墨村」
「…」
元々短気である限は自身の苛立ちが怒りに変わっていくのを徐々に感じていた。しかし拳を握ることで何とか堪える。
「用がないなら帰るぞ」
「!待っ…!」
良守は限の読み通り、押してダメなら引いてみろ作戦に慌てて結界を解除した。本当につくづく単純な奴だと思う。
「〜っ」
しかしまぁ。腕を捕まれて見上げられても言葉は伝わらないものなのだが。良守は失念していたのだ、限がかなり鈍いことを。
「なんだよお前」
「俺は!お前が!」
良守にぎゅっと掴まれた右腕が妙に気になる。限はその手が発する熱に気付いていたが、何も言わない。もうしばらく、このままでもいいと思ったのだ。
「お前が好きだ!」
「………」
別にそれは嫌悪したからとはそういうのではなくて。
ただ単純に良守が何を言っているのかを理解したくない自身がいるだけなのだ。
限は強く思った。
誰かに必要とされている。良守が必要としていてくれる。
それは幸せということなのだ。分かっている。
分かっては、いるのだが。
「………何言ってんだお前」
限は冷たく強張った返答をした。良守の眉が八の字へと変わっていく。
ズキン、
「何って…!俺は!」
「墨村」
静かに、気持ちを悟られないように。
限は良守をじっと見つめた。
「俺は派遣されたお前らの補佐役だ」
「…っ」
それだけで伝わったのだろう。
限は仕事仲間であり、良守の恋人になるつもりはないと。
限は肩を震わせて俯く良守を一瞥して、墨村家から静かに退出した。
嫌いではない、嫌いなはずがない。
夜空の冷たい風を浴びてもなお、こんなにも身体は熱いのに。
だが、自分は甘い痺れに酔ってはいけない。
近付けば近付き過ぎてしまえば、後々いつ嫌われるのかと怖くなるから。
だから限は、自分の気持ちに蓋をした。
遠くでガララ…と音がする。限が出て行ったのだとすぐに分かった。しかし良守はその場に縫い付けられたように動かない。
ショックがないとは言わない。
しかし、今ふつふつと浮かぶのは疑問。
「…何で、泣くんだ?」
冷たい言葉とは裏腹の潤んだ限の瞳。実際泣いてはいないけれど、泣きそうだった。
あの目は子供が嘘をついた様な目だと良守は思う。
「言わなきゃ分かんないのはどっちだよ」
過信ではないだろう。限は、嘘を、ついた。
今まで思ってきたのだから分かる。
好きだから、分かる。
「ちくしょう」
良守は勢いよく部屋を飛び出した。
俺は諦め悪いんだ!待ちやがれ!
フラれた後だというのに、何故か良守の心は高揚していた。
アトガキ
さてこの後限はどうなったのか!
1、良守に言葉攻めされる
2、良守に自覚させられる
3、鳴かさ…泣かされる!
私的三番がいいわ!←ぉぃ
2010/05/11