一周年記念

□10年後の想い
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静かな自室でキーボードを打つ音をBGMにしながら、会社から持ち帰った書類の束をパソコンを使いデータ表へ纏めていく。

「…ふむ、やはり今月は総売上が甘いな」

示されたデータを見て鬼道は眉間にぐっと皺を寄せた。その際に赤いフレームの眼鏡が少し下にずれたので中指で持ち直す。ゴーグルを着用していた時はいちいちずれる事もなかったが、流石に鬼道財閥の御曹司としてそれなりに格好を気にしなければならなくなり、今ではこの眼鏡が鬼道のトレードマークだ。
だがドレッドヘアーは相変わらずで今でも頭の上で一つに結っている。

「何か新商品を議案するべきか」

しかし、新商品と言っても多くの世代に取り入れられる物でなくては、一時は儲けても直ぐに売上は落ちるだろう。人の心は移ろいやすいものだ。

「考えが纏まらん、少し気分転換でもするか」

鬼道はパソコンの電源を落とし椅子から立ち上がると、近くに掛けてあった茶色のコートを羽織って家を後にした。



「此処に来たのは、何年ぶりだったかな」

鬼道はベンチに座りながらフッと笑う。そこは稲妻町のシンボルが建つ鉄塔だった。鬼道にとって思い出の場所の一つで、少々苦々しくもある場所だ。
此処を教えてくれたのは彼だった。
此処で互いの気持ちを吐露し、沢山のキスをして緊張で汗ばんだ手を握った。沢山の話をした。
そして此処で…彼に、円堂守に別れの言葉を告げた。

『何でだよ…ッ!なんで別れるなんて言うんだよ鬼道!』

『理解しろ円堂…、俺もお前も、もう子供ではいられないんだ。現実を見ろ』

『分からねぇよ!なんなんだよ…!鬼道は、俺が嫌いになったのかっ?』

『違…っ、………そうだ』

『…!』

『だからもう付き合いきれない』

あの時見た円堂の涙はいまだに脳裏に焼き付いている。
あれから鬼道は帝国学園高等部へ進学し現在に至る。円堂とは連絡を取れていないが、親友である豪炎寺から度々様子を知らせるメールが着ていた。
つまり、雷門中学を卒業してから彼らとは10年もの間会っていないのだ。
何ヵ月か前に届いた豪炎寺からのメールでは、彼は医学を学ぶ為にドイツへ留学しサッカーも続けているらしく、円堂はプロサッカー選手として活躍していると聞いて、何度かテレビ越しに彼を見た。
忘れたはずの胸が傷んだ。
疼いた。
焦がれた。
嫌いになるわけなどなかった。
叶うならずっと一緒にいたかった。
でも大人びていた自分は、何時までも無邪気な子供のままでいられないと理解していた。だから自分でケリをつけたのだ。


…つけた、つもりだった。


「全く、もう良い歳だと言うのに未練がましいな俺は」

鬼道が自嘲気味に笑んだ時だった。

「………鬼道?」

鬼道はゆっくりと目を見開いた。



「豪炎寺…?」
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