†カカベジ†

□なんて、幼稚
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「おめぇ、なんか顔色わりぃぞ。やっぱり」
瞬間移動でベジータの一室に来ていた悟空…もといカカロットは、ベッドに片膝を立て座っている部屋の主の隣に座る。
「しつこい野郎だな、何でもないって言っている」
「オラは心配なんだ」
「ふん。貴様に心配されるとは、俺様も落ちぶれたぜ」
「あっ、可愛かねぇー」
「上等だ、くそったれめ」
「おめぇ、あれん時はあんなに素直なのになぁ」
「ば……っ!!」
赤面したベジータは悟空の脇腹に拳を入れる。悟空は少しうずくまった。ベジータは不機嫌そうに眉根を寄せ、彼の言葉を頭で反芻した。

『…あれん時はあんなに素直…』

悟空の言う【あれ】とは夜の行為だ。あれはベジータ本人が同意しなくても、彼が力で捩伏せる為に仕方なく…。いや、しかし心のどこかで行為を喜ぶ自分がいるのも事実だ。
「いちちち」
「ふんっ」
「なんだよー、オラ本当の事言っただけじゃねぇか」
「やかましい、黙れ」
「ちぇ」
子供の様に拗ねた彼がふいに愛おしく感じた。あまっちょろい自分にベジータは嫌悪する。

何と言う、ていたらく。

これが誇り高きサイヤの王子?!

下級戦士に心揺れるなど。

ベジータはぐっと膝の上で拳を握る。もはや忘却の栄光、いまだそれに戒められている自分。おかげで素直などとは程遠い性格になった。
誇りを持ち続けるのが嫌なのではない。
自分にとって誇りこそ、正当化できるのだから。

だが、時たまに。本当に無意識に考える時がある。

素直になったら楽だろうか、と。

「ベジータ?」

握りしめた拳を、悟空が上から包むように握った。硬くごつごつとした弾力がある大きな手。
「やっぱおめぇ変だぞ。具合悪ぃんか?」
「…大丈夫だと言っている」
「…ほらやっぱり」
「何が言いたいんだ貴様は!!!」
「普段のおめぇなら、真っ先に手ぇ離せって怒ったろ?」
悟空の指摘にベジータは苦虫を噛んだ顔をする。確かに余裕がないのは確かだ。それを知られるのはカンに障るので肯定はしないが。
悟空の無邪気な笑みが余計に苛立たせる。ベジータは勢いよく手を離した。
「ふん!」
「そうそう、それがおめぇらしい」
「黙れ!用がないならさっさと帰れ!」
「おめぇ元気になったらいきなり怒るんか」
「貴様が苛立たせるんだ!」
「オラなんかしたか?」
首を傾げる彼にベジータはぐっと息を呑む。彼が何をしたわけでもない、只苛立つ。なんて自分勝手な見解。分かっていても苛立つ。

−そういう奴なのだ、貴様は…


側にいると意識するだけで焦燥が募り、冷静でいられなくなる。彼が名前を呼ぶ度に見えない何かで縛られる。
誇りをずたずたにされる。

そして彼に触れる度に

罪悪感と快感でぐちゃぐちゃになる。

自分が見知らぬ誰かの様で気味が悪い。


「…」
「…」
つかの間の沈黙を破ったのは、突如頭に乗ってきた大きな手。それはリズムよく頭で動いている。
「…貴様」
「悟飯や悟天が泣きそうな時にこれやっとよ、不思議と気分よくなんだ」
「泣きそうだと?」
「ベジータおめぇ、やっぱりなんかあったろ?目がうるってしてっぞ」
優しい微笑みに優しい手つき。いつもみたく突っぱねてやろうと思うのに、意に反して手に自由がいかない。
「…カカロット、今すぐガキ扱いはやめろ。ぶっ殺すぞ貴様」
「今のおめぇに言われてもなぁ」
「離せ消えろ出ていけ帰れ」
「ひっでぇ」
「貴様…ッ」
ベジータの身体全体が怒りで震え出した時だ。ぐいっと力強い腕に引き寄せられ、唇を吐息ごと塞がれる。甘い痺れが頭も怒りも麻痺させた。
「は…」
「おめぇがいけねぇんだぞ、ベジータ」
「何が、だ」
「そんな可愛いから、いけねぇんだ」
何を無茶苦茶な事を、という言葉が唇と供に再び塞がれる。先程より激しい、互いを欲してやまない欲望の接吻。

−これがきっと幸せなのだ。

「ベジータ…」

−ムカつくけど、認めざるおえなくて。

「オラ、おめぇがでぇ好きなんだ」

ベジータはふと思った。何故、悟空に苛立つのか。それは彼が真っ直ぐで素直で偽りがないからだ。そんな彼が羨ましく妬ましく、ムカつく位好きだからなのか…ベジータは素直に思った。
「…もういいだろう」
やんわり、だが力強く悟空を離す。悟空は拗ねたような顔を見せた。
「俺は貴様の発情を受けるために、貴様の出入りを許してなんかないんだ」
「オラだって、発情をはらすために来てるんじゃねぇぞ」
「なら二度とあんな事するな」
「それは嫌だ」
「貴様…ッ」
「だってあれは愛情表現っちゅーやつだ」
「…愛情だと?」
ベジータのこめかみがピクリ、と動く。それを目にしながらも、悟空はすがすがしく頷いた。
「綺麗ごと吐かすんじゃねぇ!!貴様は馬鹿か?!バカロットか?!俺は過去に貴様が大嫌いな虐殺とやらを犯してやがるんだ!貴様にとって許せない奴なんだぞ!!そんな俺に愛情だと!!?」
ベジータの感情が爆発する。悟空はそれを黙って、真摯に聞いた。ベジータは内心みっともない、と思ったがなかなか蓋を閉じられない。
「貴様はこんな汚れた奴を愛するとか吐かすのか!!?」

「…うん、愛してっぞ」

「な…んだと…?」
「ベジータ、おめぇが言う事にゃあ間違いはねぇ。確かにおめぇは今まで殺し過ぎた。けどよ」

ふわり、と暖かく逞しい腕に抱きしめられる。ベジータはふいに泣きそうになった。
「そんなおめぇを可愛いって、でぇ好きって、オラは思っちまったんだ」
「…ッ、バカ、ロットめ!」
「はは、オラおめぇといられんならバカロットでいーや」
暖かな懐に、ベジータは何もかも預けたくなる。不思議と気持ちも落ち着いていた。
「好きだぜ、ベジータ」
ちゅ、と軽い音が唇に立てられる。ベジータはそんな悟空にいつもみたく笑った。
「ふん」
そして、気持ちを乗せるように、自分から唇を重ねた。


−貴様はまるで、汚れを流す優しい雨のようだ。

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