†カカベジ†

□Cat&Mouse
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「くぁ」



大きな体躯の黒猫がソファーに伏せていた。青と橙の胴着の様な服を着用し、はねた頭毛には三角耳が立っている。瞼を閉じた猫の顔辺りで尻尾がふよふよと動いていた。

「んー、オラ腹が減ったぞ」

猫の名前は孫悟空。
西の都にある、カプセルコーポレーションの現社長【ブルマ】に拾われた雄猫である。何でもブルマいわく「強靭さと毛並みが金色に変わる特殊さが気に入った!」らしい。

「飯はまだなんか?ブルマーブルマー」

飼い主を呼ぶが返事はない。耳を済ますが無音だ。悟空はいてもたってもなくなり、身体を起こして食料を詮索に出掛けた。




「此処にはねぇようだな」

リビングのあちこちで食料の匂いを捜すが、なかなか見つからない。気力も空腹も減るばかりだ。

「もうオラ鼠でもいーぞ」

元々野良だった悟空だ。本気になれば鼠の一匹や二匹捕まえられる。そうして拾われるまで生きてきた。
しかし、この家に果たして鼠はいるのだろうか?
なにせあらゆる設備が備えられた家である。どんなセンサーがあるか分からない。
ちなみに悟空はセンサーに家族登録されているので大丈夫なのだ。

「おーい鼠ー、いねぇんか?」

ひくひく、とひたすら嗅覚に集中する。どんな微量な匂いも、悟空は逃さないつもりなのだろう。
だが見つからない。悟空が半ば諦めている時だった。


ぴく…っ!


悟空の嗅覚がある匂いを捕えた。それは今まで嗅いだ事がない極上の匂い。悟空の目がきらきらと輝く。

「すんげぇいい匂いだ!!」

−すん、すんすん

それはなんとも馨しく悟空の食欲をそそった。口から垂れるよだれを拭いながら、悟空は部屋の一角、つまり匂いの元にたどり着く。
そこには−−−

「く……ッ」

身体中が傷だらけの黒い鼠がいた。つん、とした頭毛に鼠独特の丸い耳。所々破けた濃紺のタイツの様なものを着用している。腰から生えた尻尾は力なくうなだれていた。
しかし鼠から放たれる殺気は、その小さな体躯に比べナイフの様に鋭い。

「なに、見て…やがるんだッ!殺すぞ!」

ドスの効いた声と鋭い視線が悟空にささる。しかし悟空は怖じず、実に飄々としていた。

「おめぇ、誰だ?」

「ふ、ん。貴様なんぞに答える名前なんて、持ち合わせておらん…っ」

荒い息を吐きながら鼠は立ち上がる。瞬間、悟空は目を見張った。あまりにも鼠が綺麗に見えたからだ。

−ブルマがよく言う、「綺麗すぎて食べるのが勿体ない」って、もしかしてこれんことか?

あの時はよく分からなかった。食べ物は食べる為に買ってきてるのになぁ、と。
しかし今なら分かる気がする。
きっとこの鼠は極上だ。匂いを嗅ぐだけで腹が鳴り、喉が渇き、口内がよだれで一杯になる。身体中の血が、渇望するあまりに沸騰しそうになる。

−ああ、すんげぇ美味そうだ。

悟空は知らず知らずの内に生唾を飲んだ。だが、食べてしまえばそれで終わり。悟空は、それでは何だか勿体ない気がしたのだ。

「ちっ」

傷が痛むのか、鼠は眉間の皺を深くする。そんな彼に悟空はにこっと無邪気に話しかけた。

「オラ、孫悟空っちゅうんだ!よろしくな、ネズ公!」

「ネ…ネズ公だと!?なんだそのふざけた名前は!!」

「ん?だっておめぇ名前言わねぇじゃねぇか」

「ふん!!」

ネズ公(悟空命名)は、不機嫌を表わにしながらゆっくり歩く。悟空も隣を歩いた。

「貴様はなんで着いてくるんだ!!」

「ここはでけぇから、迷っちまうんじゃねぇかと思って」

「俺様が迷うわけねぇ!欝陶しい奴め!」

「あ、ひでぇなぁ」

「大体貴様は猫だろう!?猫ならば猫らしく、闘争本能に身を任せんか!」

「…それはつまり、オラにおめぇを食えっちゅーことか?」

「誰が貴様のような猫に食われるか!…俺は惑星ベジータの王子ベジータ様だぞ」

ベジータは不敵に笑う。どうやら遠い星から来たらしい。悟空は内心(珍しいから、こんな美味そうな匂いすんのかな?)と思った。
しかしまさか王子とは。成程、傲慢な物言いも、不遜な態度も王子なら納得がいく。

「おめぇ、ベジータっちゅうんか」

「!!」

「ははっ、まぬけだなぁ!おめぇ名前言っちまってっぞ」

「だ、黙れ!!!」

ベジータは傷身など思わせない俊敏さで悟空の尻尾にしがみつくと、勢いよく歯をたてた。

「いてーぇ!!」

「ざまぁみやがれ」

「いちちっ、何すんだベジ公!」

「ベ…!貴様ぁ!しかたないとはいえ名乗ってやった俺様に、そんなふざけた名前つけやがって!!くそったれがぁ!」

「いてえぇえ!!!」

一見、二匹がじゃれあい微笑ましい光景である。しかし悟空は忘れていた。此処はあらゆる設備があったことを。


ピー…シンニュウシャ!ハイジョ!


どこからともなく現れたロボットがベジータを感知し、二匹に向かい突進してくる。悟空はとっさに身構えたが、それよりも早くベジータがロボットに向かって行った。

「ベジ公!」

「不愉快な名前で呼ぶな!」

ベジータは素早くロボットにしがみつくと、勢いよく噛み付いた。しかし相手は金属なので歯がたたない。そのうちロボットから延びた腕がベジータを捉える。

「離しやがれっ!!」

ベジータが精一杯抵抗する。しかし所詮は鼠、いくらあがこうとロボットには敵わない。そんな様子を見ていた悟空は、心がざわついた。

−そいつは…ッ、そいつはオラの獲物だッ!

気が付けば、悟空はロボットに飛び掛かっていた。一瞬、悟空の毛並みが金色に変化したように見えた。が、続いて起きた小さな爆発の煙に視界が遮られる。ベジータは、次に襲うだろう痛みに受け身をとった。しかし痛みがない。目を開ければ悟空の背中に乗っていたのだ。

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