†カカベジ†
□Cat&Mouse
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「!」
「でぇじょうぶか、ベジ公」
「貴様…ッ」
「心配すんな!ブルマには見つからねぇよう隠しとくからよ」
スプラッタ化した機片を悟空は踏みながら、ベジータをゆっくりと床に下ろしてやる。
「礼など言わんぞ!貴様が勝手にしたことだ!」
「別に構わねぇさ。そういやぁおめぇ、傷だらけだなぁ。なんかあったんか?」
「…」
ベジータは顔をしかめ、壁に背中を預け座る。悟空もベジータの隣に体を伏せた。
「なぁなぁ、なんかあったんか?」
「…俺様を食おうなんてクソッタレがいやがったからな、ぶっ飛ばしてやったんだ」
「おめぇ強ぇんだなぁ!」
「ふん!…まぁいい、貴様、この辺で一番強い猫を知らんか?」
「強い?」
「なんでも噂では、【カカロット】という猫が強いらしいな」
ぎくり、と悟空の肩が強張る。
「そ、そいつがどうかしんか?」
「強い、らしいなら俺様が相手してやるだけだ!猫なんかに鼠は負けんという布石を置いてやる!」
ベジータの目が生き生きとする。悟空は綺麗な目だなぁ、と思いながらも内心複雑だった。何故ならば、ベジータが言うカカロットとは自分の事だからだ。
野良の頃、ついた名称が【カカロット】。
向かってくる者に容赦なんかしない。闘うのが大好きな彼が、そうしていつしか手にしていたのは【頭】の座だった。
「しかし奴はどこにいるんだ、くそったれめ」
「…」
「見つけしだい喉笛に歯を立てて、俺様があの世に引導を渡してやるものを」
「…」
「…貴様、急に静かになったな」
「そ、そんな事はねぇぞ!」
悟空は内心どぎまぎしながら、笑みを浮かべる。
−…やべぇな、オラうずうずしてきちまった。
牙が唸り、身体中が歓喜にうち震える。いっそ自分こそがカカロットだと言ってしまえばいい。そうして、目の前の誇り高き獲物に牙を立てるチャンスを、決定的にしてしまえ。
−やばい、オラけっこう我慢が限界ぇだ。
本能に身を任せ、闘うという快感には正直焦がれる。この美しい生物を味わう、なんて魅惑な誘惑か。
−でもオラ、ベジ公がいなくなんのは嫌だ。
もっと話したい。彼を知りたい。心からの笑みが見たい。そして彼にも自分を知ってほしい。
だが、悟空にはその前に一つ確認しておきたい事があった。
「…なぁベジ公」
「貴様まだ言うか!!」
「もし、もしもだけどよッ」
「なんだ」
「オラがカカロットっちゅー猫だったらどうする?」
「貴様が?…ありえんな」
「なんでだ?」
「カカロットは金色の毛並みを持っていると聞いた。貴様は黒だろう」
「でもよ…」
「くどい!俺は忙しいんだ!おい貴様、さっさと俺を外に運び出せ!」
ベジータは悟空の前に腕組みをして立つ。悟空は何だか少し苛立ってきた。その苛立ちをぶつけるかのように、ベジータを前足で押し倒す。
「な、なにしやがんだ!!離しやがれ!!」
ベジータが前足に噛み付く。そこから少し血が流れるが、悟空は冷たい眼差しをベジータに据えたままだ。
「…ベジ公」
「!!」
ざらり、とした舌でベジータの上半身を舐めあげる。思った通りとても甘美だ。ベジータの顔がみるみる内に羞恥から怒りに染まる。
「貴様!!」
「あんまり、カカロットカカロット言うなよ」
「な!?」
「今おめぇと話してんのはオラだ」
「貴様、何を」
「おめぇと話したり、一緒にいんのはオラなんだ。カカロットじゃねぇ」
「わけの、わからん事言いやがって!離せ!!」
ベジータがじたばたと暴れるが微動だにしない。そんな彼を見て閃いた悟空は、先程とがらっと雰囲気を変えて無邪気に笑う。
「…なぁおめぇ、此処に住めよベジ公」
「!?」
「オラおめぇともっと話してぇ!組み手もしてぇ!なっ?いいだろ?」
「嫌だ!」
「なんでだよ!あ、もしかしてオラがおめぇを食っちまうって思ってんか?」
「…ふん、貴様なんぞに食われるか馬鹿め」
「大丈夫!オラ努力すっから!なっ?なっ?だから此処に住めよ!」
「貴様なんかと顔を一日中つきあわしてられるか」
「…うんめぇチーズも肉もあっぞ?」
ピクン、とベジータの丸い耳が反応する。悟空は前足をのけて更に畳みかけた。
「なんでも、超最高?級らしいぞ?おめぇ、そんな美味ぇもん毎日だって食いてーだろ?」
ピクピクッ
「それに此処にいれば、おめぇが捜してるカカロットにも会えっぞ?」
ぴくんっ!!
「さぁ、どうすんだ?ベジ公」
「…ベジ公ではない、ベジータだ馬鹿め」
それは彼なりの承諾だった。悟空は「ひゃっほう!」と喜び跳ね回る。ベジータは少し頬を染めながら舌打ちした。
「そうと決まれば、おめぇの部屋探ししなくちゃなぁ」
「その前に食料だ!貴様、チーズを持ってこい!」
悟空はベジータの服を口で掴み背中に載せると、とりあえずチーズを求めて詮索する事にした。
こうして奇妙な二匹は出会ったのである。
−覚悟しろよ、ベジータ。
ぜってぇ、おめぇを逃したりなんかするもんか!
おめぇはオラの獲物、なんだからよ?
悟空は上機嫌で喉を鳴らせながら、とりあえずカカロットは自分だと何時言おうか考えていた。
→アトガキ