†カカベジ†

□Cat&Mouse
2ページ/3ページ

「!」

「でぇじょうぶか、ベジ公」

「貴様…ッ」

「心配すんな!ブルマには見つからねぇよう隠しとくからよ」

スプラッタ化した機片を悟空は踏みながら、ベジータをゆっくりと床に下ろしてやる。

「礼など言わんぞ!貴様が勝手にしたことだ!」

「別に構わねぇさ。そういやぁおめぇ、傷だらけだなぁ。なんかあったんか?」

「…」

ベジータは顔をしかめ、壁に背中を預け座る。悟空もベジータの隣に体を伏せた。

「なぁなぁ、なんかあったんか?」

「…俺様を食おうなんてクソッタレがいやがったからな、ぶっ飛ばしてやったんだ」

「おめぇ強ぇんだなぁ!」

「ふん!…まぁいい、貴様、この辺で一番強い猫を知らんか?」

「強い?」

「なんでも噂では、【カカロット】という猫が強いらしいな」

ぎくり、と悟空の肩が強張る。

「そ、そいつがどうかしんか?」

「強い、らしいなら俺様が相手してやるだけだ!猫なんかに鼠は負けんという布石を置いてやる!」

ベジータの目が生き生きとする。悟空は綺麗な目だなぁ、と思いながらも内心複雑だった。何故ならば、ベジータが言うカカロットとは自分の事だからだ。


野良の頃、ついた名称が【カカロット】。
向かってくる者に容赦なんかしない。闘うのが大好きな彼が、そうしていつしか手にしていたのは【頭】の座だった。


「しかし奴はどこにいるんだ、くそったれめ」

「…」

「見つけしだい喉笛に歯を立てて、俺様があの世に引導を渡してやるものを」

「…」

「…貴様、急に静かになったな」

「そ、そんな事はねぇぞ!」

悟空は内心どぎまぎしながら、笑みを浮かべる。

−…やべぇな、オラうずうずしてきちまった。

牙が唸り、身体中が歓喜にうち震える。いっそ自分こそがカカロットだと言ってしまえばいい。そうして、目の前の誇り高き獲物に牙を立てるチャンスを、決定的にしてしまえ。

−やばい、オラけっこう我慢が限界ぇだ。

本能に身を任せ、闘うという快感には正直焦がれる。この美しい生物を味わう、なんて魅惑な誘惑か。

−でもオラ、ベジ公がいなくなんのは嫌だ。

もっと話したい。彼を知りたい。心からの笑みが見たい。そして彼にも自分を知ってほしい。

だが、悟空にはその前に一つ確認しておきたい事があった。

「…なぁベジ公」

「貴様まだ言うか!!」

「もし、もしもだけどよッ」

「なんだ」

「オラがカカロットっちゅー猫だったらどうする?」

「貴様が?…ありえんな」

「なんでだ?」

「カカロットは金色の毛並みを持っていると聞いた。貴様は黒だろう」

「でもよ…」

「くどい!俺は忙しいんだ!おい貴様、さっさと俺を外に運び出せ!」

ベジータは悟空の前に腕組みをして立つ。悟空は何だか少し苛立ってきた。その苛立ちをぶつけるかのように、ベジータを前足で押し倒す。

「な、なにしやがんだ!!離しやがれ!!」

ベジータが前足に噛み付く。そこから少し血が流れるが、悟空は冷たい眼差しをベジータに据えたままだ。

「…ベジ公」

「!!」

ざらり、とした舌でベジータの上半身を舐めあげる。思った通りとても甘美だ。ベジータの顔がみるみる内に羞恥から怒りに染まる。

「貴様!!」

「あんまり、カカロットカカロット言うなよ」

「な!?」

「今おめぇと話してんのはオラだ」

「貴様、何を」

「おめぇと話したり、一緒にいんのはオラなんだ。カカロットじゃねぇ」

「わけの、わからん事言いやがって!離せ!!」

ベジータがじたばたと暴れるが微動だにしない。そんな彼を見て閃いた悟空は、先程とがらっと雰囲気を変えて無邪気に笑う。

「…なぁおめぇ、此処に住めよベジ公」

「!?」

「オラおめぇともっと話してぇ!組み手もしてぇ!なっ?いいだろ?」

「嫌だ!」

「なんでだよ!あ、もしかしてオラがおめぇを食っちまうって思ってんか?」

「…ふん、貴様なんぞに食われるか馬鹿め」

「大丈夫!オラ努力すっから!なっ?なっ?だから此処に住めよ!」

「貴様なんかと顔を一日中つきあわしてられるか」

「…うんめぇチーズも肉もあっぞ?」

ピクン、とベジータの丸い耳が反応する。悟空は前足をのけて更に畳みかけた。

「なんでも、超最高?級らしいぞ?おめぇ、そんな美味ぇもん毎日だって食いてーだろ?」

ピクピクッ

「それに此処にいれば、おめぇが捜してるカカロットにも会えっぞ?」

ぴくんっ!!

「さぁ、どうすんだ?ベジ公」

「…ベジ公ではない、ベジータだ馬鹿め」

それは彼なりの承諾だった。悟空は「ひゃっほう!」と喜び跳ね回る。ベジータは少し頬を染めながら舌打ちした。

「そうと決まれば、おめぇの部屋探ししなくちゃなぁ」

「その前に食料だ!貴様、チーズを持ってこい!」

悟空はベジータの服を口で掴み背中に載せると、とりあえずチーズを求めて詮索する事にした。

こうして奇妙な二匹は出会ったのである。



−覚悟しろよ、ベジータ。

ぜってぇ、おめぇを逃したりなんかするもんか!

おめぇはオラの獲物、なんだからよ?



悟空は上機嫌で喉を鳴らせながら、とりあえずカカロットは自分だと何時言おうか考えていた。




→アトガキ

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ