†カカベジ†
□【籠鳥雲を恋う】
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空想の生物と謳われた鳥…サイヤ鳥。
その体躯は漆黒の鷲の様、瞳は群青が混ざった夜空。獰猛であり人語を理解する。
成鳥は擬人化を会得し、中でも特別種は満月の夜に気持ちが荒ぶると毛並みが黄金に輝くと言われている。
だがそれは所詮空想物語。実際に存在するはずなどない。
…そう、人々は思っていた。
1・囚われの王子
闇に包まれた小さな部屋に一筋の淡い光が零れる。それは天井にある小窓から真っ直ぐ部屋の一角を照らし出していた。
「…月か」
声の主が身じろぎをすると、ギィ…と鈍い音がする。照らされた鳥籠は少し揺れていた。
「ふん、月なんてくだらねぇもん見せやがって。そんなに黄金の毛並みが見たいのか。え?フリーザさんよ」
今はこの部屋にいない飼い主…フリーザの事をそれは嘲笑った。ふいに月光がその肢体を照らす。
まず初めに見えたのは、惨たらしいまでにちぎられて大部分が失くなった漆黒の羽と鷲の様な体躯。瞳は群青が混じった夜空。
まさに空想で語られたような、サイヤ鳥。
右足首に付けられたタグには【ベジータ】と書いてある。名前だ。
「だが俺はサイヤ鳥のエリートだ。変化はコントロールが出来る。残念だったな」
フリーザが自分を重宝するのは何も珍種だからではない。サイヤ鳥の中でも特別な鳥が持つ特製を我が物にしたいからだ。
だがベジータはプライドにかけてそれを今まで一度も見せていない。何度羽を毟られようと、わざと小窓の布を取り月光を浴びせられようとも。
…自由を奪われたとしても。
そんなベジータの唯一の生き甲斐。それは、
「貴様をいつか必ずぶっ殺してやるぜ!…フリーザっ!」
殺された仲間達の仇ではない。弱肉強食の世界でそんな甘い考えは浮かばない。
ただ己の誇りの為に、屈辱を晴らす為に命を奪う。
かつて群れを率いていたベジータにあるのは孤高のプライド。そのプライドの為に彼は生きている。
「…ふん」
ベジータはこちらに向かう嫌な気配を感じると、瞼を閉じて世界を遮断した。
「おやベジータさん、もうお休みなのですか?」
相変わらず耳に障る下品な声だ、とベジータは思う。部屋の戸口から表れたのは強引にも飼い主になった憎きフリーザだ。
「今夜もいい月ですねぇ。…しかし君も強情だね?早く僕に見せて下さいよ。それともまた羽をむしろうか?」
(貴様がむしったせいで、今ではまるで雛の羽だ、くそったれめ!!)
「まあいい。いつ君の態度が変わるか見物だよ。…おやすみなさい、ベジータさん」
ぞわり、と背筋を嫌な感触が這う。フリーザが触れようとしたのだ。しかしその指は触れる事はなく、暗い室内にベジータはまた一羽になった。
「…っ!」
やり切れぬ苛立ちを籠にぶつける。怒りと嫌悪のあまり身体が震えた。
「ちくしょう!!」
ベジータは苦渋に満ちた瞳で小窓を見上げる。
こんな日は空を思うがまま飛んでみたい。
…それはもう叶わぬ夢だけども。
辺りを見回せば緑豊かな木々が朝の訪れにさざめいている。
「やっぱ空は気持ちいーな!」
空を飛んでいたそれは近くの枝に留まる。体躯や瞳や毛色からサイヤ鳥の特製と酷似していた。
「腹減ったなぁ。やっぱ木の実じゃ足んねぇや」
「あ!いた!!」
「ん?よう!ブルマじゃねぇか」
「もう孫君ったら!今まで何処に行ってたのよ?」
「ははっ、悪ぃ悪ぃ」
鳥は木の下にいる青い毛並みを持つブルマと呼ばれる豹の元まで降り立つ。ブルマは彼を見ると凄い剣幕で怒鳴った。
それをいつの間にいたのか、黒い毛並みに頬に傷をもつ狼が苦笑しながら宥めた。
「それくらいにしとけよ、ブルマ」
「ヤムチャ!ヤムチャじゃねぇか!」
「よっ!相変わらずだな悟空」
「おめぇ北の方に行ってたんじゃないんか?」
「ちょっとな。用事があって帰ってきたんだ」
悟空と呼ばれた鳥は表情を嬉々としながらヤムチャの肩に留まる。久しぶりに会った旧友に思い出話を咲かせようとした。が、
「ヤムチャ!」
「な、なんだブルマ」
「あんた、最近姿見せなくなったと思ったら北に行ってたわけ!?」
「群れでちょっといざこざが」
「知らないわ!あたしが怒ってるのはねぇ、どうして孫君が知っててあたしに教えなかったのかって事よ!」
「そ、そんなつもりじゃ」
今にも噛み殺さんばかりのブルマの気迫に、ヤムチャは知らず知らず冷や汗を流す。
そんな中悟空の笑い声だけが朗らかだ。
「おめぇ達相変わらず仲悪ぃなぁ」
「うるさいわよ孫君…」
「怒んなよぉブルマ」
「はー…。もういいわシラケちゃった。馬鹿馬鹿しい、あたし泉に戻るわ」
「待てよブルマ。オラに用事あったんじゃねぇんか?」
「忘れちゃったわよ。…じゃあまたね」
「なんだぁ?」
ブルマの消えた方角を見つめたまま悟空は首を傾げた。ヤムチャは身体から息をはいて、木にもたれるように身体を伏せる。どうやらかなり疲労したらしい。
「疲れた…」
「おめぇも修業がまだまだだな」
「あのな悟空。世の中修業だけじゃ何とか出来ない事もあるんだぜ?」
「?」
「まぁお前にはまだ分かんないだろうけど。…それより、俺はお前に用事があったんだ」
「オラに?」
ヤムチャの瞳が鋭く光る。悟空は地面に降り立つとヤムチャの視線を真っ向から受け止めた。どうやらおふざけとかそんなものではないらしい。何かあったのだろうか?
「悟空、お前確か雛の時に嵐に巻き込まれてこの森にやってきたんだよな?」
「ああ。そしてオラは爺ちゃんに拾ってもらった」
「…お前、不思議な能力があるとも言ってたよな」
「爺ちゃんに止められてっけどな」
「…もしかしたらだけど、いるかもしれない」
「?」
「お前の仲間が」
「オラの…仲間ぁ?!」
悟空は驚愕してつい大声を出してしまう。
その反応も仕方がなかった。今まで人間であり祖父になった孫悟飯、ブルマやヤムチャ等の森の仲間達。悟空は皆の中にいるだけで楽しくて幸せだった。
だから同種の事なんて考えた事がなかった。
だが、いるかもしれないとヤムチャは言う。
「ど、何処にいんだっ?」
「風の噂だけど、西の都で見たらしいぜ」
「都?人間に捕まっちまってるんか?」
「あくまで噂だけどな。もしかしたらいないかもしれない」
「オラと同じ…」
「逢いたいか?」
「いっ?!」
「逢ってみたいか?」
「…うーん、正直オラよく分かんねぇ。ただよぉ、変な感じがすんだ」
胸がほかほかと言うか、どきどきと言うか。妙な心地よさと戸惑いが込み上げてくる。
「オラ多分、嬉しいんだと思う」
「そっか」
「…よし決めたぞ!オラ逢いに行く!」
「まぁ、云々考えるより行動する方がお前らしいぜ。西まで遠い。俺が少し送ってやろうか?」
「ありがとうなヤムチャ。でもオラは自分で行きてぇんだ」
「分かったぜ悟空。気をつけてな」
「おう!」
悟空は見事な翼を羽ばたかせ空へと駆け登っていく。そんな彼をヤムチャはただ優しく見守っていた。
運命という名の赤い糸が今交差し、出会いをカラカラと紡ぎ始めた。
【アトガキ】
318記念というわけで鳥化パロディを執筆してみました。
とりあえず今は二人?二匹?はまだ出会っていません。
しかし多分次で出会う、予定…。
しかもこの小説!318記念というわけで【ドロンゲーム】のカズ様が挿絵を書いて下さります!!!神威がお願いしました!!
うわぁいうわぁい!!
どのシーンを再現していただけるんでしょうね!!(わくわく
ともかくヤムチャは兄貴肌だという私の固定概念。
2010/03/13