†イナイレ†

□愛憎BLOOD
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第弐話






「佐久間っ、パスを出すスピードが遅い!辺見、もっと上がれ!」

隣で的確な指示を出す鬼道を源田をじっと見つめていた。一見普段と同じように見えるが、どことなく彼の纏う雰囲気は苛立っているように見える。

「…鬼道、何かあったのか」

「何もない。それより源田、お前もさっさと練習に戻れ」

「俺は総帥からお前の参謀役を担っているんだがな」

優しげな視線に鬼道はため息をついてぽつりと言葉を漏らした。

「昨夜、総帥から連絡があった」

「ほう。練習試合の日程か?」

「そうだ。相手は稲妻町にある雷門中、有名な弱小サッカー部らしい」

「弱小?」

源田が不思議そうに言葉を反復した。鬼道は黙っている。それは肯定を示しているのだろう。

「総帥は、そこに転校してくる奴を気にしているらしい。…エースストライカーと呼ばれ、今回の俺達の役目はそいつの実力を見極めてこいとのことだ」

「…なぁ鬼道、俺の勘違いかもしれんが」

「言っておくが、ヤキモチなんてくだらんことを言うなよ源田」

思考を読み当てられて源田はぐぅと言葉を飲む。鬼道を見ればさらにぶすくれているようだった。

「佐久間っ!そこはパスだ!」

源田は明らかに八つ当たりされているチームメイトに哀れみの視線を送った。





「失礼します」

固い金属質のドアノブに手をかけて、鬼道はゆっくりとドアを開けた。機械的な青白い光が照らした暗い室内に一歩踏み出す。

「鬼道」

鬼道は無意識にびくりと強ばる自身に叱咤して声の主を真っ直ぐ見つめた。帝国学園理事長にしてサッカー部の顧問、別名総帥と呼ばれる『影山零治』である。
そして、鬼道の正体を唯一知っている人物だ。

「前日、お前には次の試合の日程を話しておいたな」

「はい」

「これを明日までにインプットしろ」

ばさり、と鬼道の足元に放られた書類を見て鬼道は目を見開いた。といっても、ゴーグルで隠されているため影山には分かっていないだろう。
それは雷門中のサッカー部の個人データであった。

「お前になら出来るはずだな」

「はい。必ずや明日までには」

「明日もう一度再確認をする。私を失望させるなよ」

鬼道は深々と頭を下げ書類を拾うと退出しようと扉に手をかけた。その時だ。

「鬼道、時にあの薬はどうかね?生き血に近い味や効能は」

「っ、…問題ありません」

ぐっと鬼道は唇を噛み締めてなるべく平静を装った。低く笑う声は自分を人外の化け物だと嘲笑っているようだ。いや実際、嘲笑っているのかもしれない。
それでも、鬼道は影山を憎んではいない。全ては血に飢えた自分が悪いのだから。

「では、失礼します総帥」






鬼道は帰宅して私服に着替えた後、自室のソファーに寝転び書類を開いた。そして、驚愕した。
書類をめくって一番初めに出てきた個人データ。そこに写真とともに書かれた雷門中キャプテン。

「…こいつ、は」

人懐こそうな丸い瞳に独特的な髪型。そして何より目を惹くのは目立つオレンジ色のバンダナ。

「…っ」

鬼道を急な頭痛が襲う。瞼をぎゅっと閉じれば流れる映像はあの日の夜のことだ。
はっと目を開けて深呼吸をする。肺が酸素で満たされる苦しみと感覚が自身を落ち着けさせた。
そんなわけはない、あの日の奴なわけはない。
大体、バンダナなんて種類はいくらでもあるし付ける人間はどこにでもいる。

「…円堂、守か」

鬼道は彼の名前を指でなぞった後、頭をふって意識を暗記の為に集中させた。
…心の中にもやもやとした影を抱えたまま。






サッカーを始めたきっかけは祖父だった。有名な選手だった祖父が楽しそうに、いとおしそうにボールを蹴る。それが大好きで、気付けばサッカーが相棒になっていた。
それを中学でも続けたくて、必死になって部員を集めて、時にはしつこいと殴られたこともあったけど。
今は無事にサッカーを楽しめていた。
そんな中、彼との再開を果たしたのだ。

「えー、今日からうちに転校してきた豪炎寺修也君だ。皆仲良くするように」

「あーーー!!」

円堂は叫んだ。その表情は信じられない!とあんぐり口を開けて、目をきらきらとさせている。叫ばれた相手は柳眉を寄せているが。
やがて先生に座らされた円堂は休み時間になると、早速窓側の席にいる豪炎寺に話しかけた。

「俺、円堂守!この間はちゃんと名乗ってなかったよな。早速だけど、豪炎寺!サッカー部に入部しないか!?」

「……………サッカーはやらないといったはずだ」

視線は運動場を向いたまま冷たく突き放される。しかし円堂は負けじと彼に詰め寄った。そのおかげかようやく豪炎寺は円堂を見た。ひどく鬱陶しそうに。

「な!やろうぜサッカー」

「………俺に構うな」

尚も言いつのろうとする円堂を止めたのは半田の切迫詰まった声だった。

「円堂!理事長と冬海先生がお前を呼んでる!」






「…サッカー部が、廃部になるかもしれないなんて」

どんよりとした重たい空気が雷門中サッカー部の部室を満たしていた。原因は、先程理事長代理の雷門夏未生徒会長によりくだされた『廃部処分』である。なんでも、次の試合に勝たなければサッカー部は廃部だとか。
しかも次の相手というのが…。

「あの天才ゲームメーカー鬼道有人率いる帝国学園だなんて…。勝てる見込みなんてないでヤンスよ」

「終わったな…。俺達に万が一の勝機もねぇよ」

「オレ、お腹痛いっス」

既に諦めモード全開な部員達に円堂はばんっと机を叩いた。その瞳はめらめらと熱くたぎっている。

「やる前から何を言ってるんだ!諦めたらやる前から負けだ!俺達は勝つしかない!廃部になんかさせるもんか!!」

「そうよ皆!皆だってサッカーが大好きだから入部したんでしょう?なら諦めちゃダメじゃないっ」

「だって…」

「俺はサッカーが大好きだ。だから皆とサッカーをまだまだやっていきたい。なぁ、諦めるにはまだ早いだろ!」

「円堂…でも、部員だって足りてないし…」

「大丈夫!俺達なら大丈夫だ!部員だって必死に呼び掛ければきっと入部してくれるっ」

「全く、その自信はどこからくるんだか」

風丸が苦笑しながら円堂の肩を叩いた。すると染岡がもう片方の肩を叩く。

「俺だってサッカーが大好きだ。最後の悪あがきしてやるぜ!」

「風丸、染岡…」

二人につられてか、部員達が次々に立ち上がりやる気を声に出していた。
円堂の胸の中がじぃんと熱くなり、その目は涙ぐんでいた。

「よぉしっ!皆やるぞ!!打倒帝国学園だぁ!」

「「「「「「「おーっ!」」」」」」」

そんな彼らの雄叫びを外で聞いている者がいた。真新しいぱりっとした制服の上着のボタンを1つ緩めて、彼はその場を去っていく。夕日に照らされた白銀の髪が風にゆれた。

「円堂、守…か」

豪炎寺は帰路を歩きながら、その瞳を痛々しげに伏せた。



帝国学園との対決まで、後3日。



アトガキ
円鬼要素皆無…っ!くっ…!←
しかしながら原作に近くするって難しいですね(笑)
次あたりで円鬼円豪だしていきたいなぁ


2010/08/13
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