†イナイレ†

□愛憎BLOOD
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第参話






初めて自害を謀った二年前のあの夜。
暗い室内の窓から見上げたまるで焔のように紅い月は、熱い目頭のせいでにじんでいた。



「此処、か」

雷門町の駅から手元にある小さなメモ用紙に書かれた通りに進めば、そこには確かに目的地があった。雷門中学校だ。

「やはり、あまり人気はないな」

日曜日なので制服は目立つだろうと思案し、結局のところ私服にした鬼道は雷門中の校門前で学校を見渡していた。規模は帝国学園が上だろうが、普通校からすれば大きいほうだろう。
しかし、今の鬼道にはそんなことはどうでもいい。彼が用があるのは雷門中に通うとある学生なのだから。

「…春奈」

幼少時代、事故で両親を失った鬼道の唯一の肉親。血の繋がり。しかし鬼道家に養子として自分が去って以来、鬼道は春奈に会う機会を断たれてしまった。
逢いたくないわけがない。世界でたった一人の妹なのだ。…だというのに。

「馬鹿だな俺は。日曜なのに、学生が出入りするはずがないだろう」

わざと日曜日に来たのは、恐いからだ。
春奈と会い罵倒されるのが、春奈にもこの忌々しい血の因果が発動していたら。
だから逃げるように、堂々と出来ない。
鬼道は地面に視線をやり自嘲気味に笑った時だった。

「おい大丈夫か?!」

誰かの声と供にぐいっと肩が捕まれて、鬼道の視線は自然と横に向けられる。鬼道は息を呑んだ。

「具合が悪いのか?!顔色が悪いぞ君!」

目立つ橙色のバンダナに雷門のジャージ。それが今度の対戦相手である円堂守だという事は一目瞭然だった。
鬼道の脳裏に過るあの夜の日の少年の面影が円堂と重なる。
[そんなわけない]と否定していた心が、[ああやはり]と肯定に走りそうになる。

「…いや、大丈夫だ」

さりげなく円堂の手を払い、鬼道は早くこの場を去ろうとした。失念していたわけではなく、勿論彼に会うかもしれない可能性も計算に入っていた。それでも此処に来たのは妹に会いたいからで…。

『本当にそうか?』

「…!」

鬼道ははっと面を上げて辺りを見回した。そこには円堂と自分の他には誰もいない。さぁ、と血の気がひいていく。

『お前は最初からこいつが気になって来たんだろう?春奈は表向きで。…諦めろ、お前の中の俺は望んでいる。あの日初めてお前が俺を受け入れるきっかけとなった、こいつの血を』

「黙れっ!」

「え…っ!」

驚いたように円堂の目が見開かれて鬼道は自身の失態に気が付いた。相手は自分をあくまでも気遣ってくれたのに、流石に今のはまずいだろう。鬼道は円堂に振り向き、申し訳なさそうに眉を寄せた。

「すまない、気がたっていたようだ。…不快な思いをさせた」

「え」

「すまなかった」

「いやいいよ、そんなに謝らなくてもさ!誰だって具合が悪かったら調子がでないもんだ!」

にこっと円堂が朗らかに笑う。まるで大陽のようなそれに、鬼道はゴーグルの中で目を細めた。見れば見る程に血が騒ぎ、血自体が吸血鬼として意識を持つかのように本能に語りかけてくる。

『その肌にぷつりと牙を立てれば、流れるのは赤く甘い血潮なのだ』

「…っ」

「大丈夫か君、頭痛がするのか?」

「いや、問題ない」

「顔色もやっぱり悪いし…。そうだ!嫌じゃないなら俺ん家来いよ!近いし休める!」

名案だと云わんばかりに笑顔をふるまく円堂に鬼道は本気で頭痛がするのを感じた。
何故こうも出会ったばかりの、と言えば少し語弊があるかもしれないがそこは一旦置いておいて、他人にここまで接せれるのだろうか。余計な世話だと突っぱねれば良いのかもしれない。だが、何故か一瞬鬼道は迷ってしまった。
なんとかして断ろうと鬼道が口を開いた時だった。ぐらり、と歪む視界と催す吐き気が鬼道を襲った。最後に薬を飲んだのはいつだっただろうか。

「おい!」

閉ざされていく意識の中、背中超しに感じたのは固いアスファルトだった。






『…せて、……て!』

誰かの声がする。聞き慣れた、それでいて耳を塞ぎたくなるような声。悲痛な叫びを訴えるようなそれはずんっと鬼道自身の心に染みてくる。

『ぼくはバケモノなんだっ…!はなして!しなせてっ!』

それが鬼道家に引き取られた頃の幼い自分だと理解した時。

「…っ」

「あ、よかった!目を覚ましたんだな!」

見慣れない天井、見慣れない部屋、見慣れないベッドに横にされていた自分。そして隣から覗き込むように自分を見下ろしているのは。

「円、堂…」

「…!すげ、俺の名前知ってんだ」

しまったと思った時にはすでに遅い。あくまで通りすがりの人として接するつもりだったのに。
鬼道はゆっくりと身体を起こして辺りを見回した。サッカーボールに脱ぎ置かれたジャージ。それから総帥に渡された資料にあった彼の亡き祖父[円堂大介]の写真。そして勉強机の角に小さくたたんで置かれていたぼろぼろの橙色のバンダナ。
鬼道は目を見開いた。あれは間違いなく、あの夜の日に少年が身につけていたものだ。

「ああ、あれ?あれが気になるのか…、鬼道」

ぴしり、と一瞬両者の空気が凍てつく。
ぎぎぎ…と鬼道が円堂に視線を向ければ、血の気がひいて硬直していた。つまりはアッチャー状態である。

「…」

「……っ」

「…」

「………っ」

「…まぁ、俺もお前を知っているからとやかくは言わない。それに世話になった身で何故俺を知っているとも追求するつもりはない」

「そ、そっか」

「と、尋常ならばそれで終わりだろうが、俺はお前の情報源を知らなければならない」

有無を言わさない鋭い眼光が円堂を貫いた。円堂は口をもごもごさせると勘弁したのか、鬼道の目を真っ直ぐと見返した。
どこか悲しげに、だがしかし覚悟を秘めている目だった。

「本当は俺がこんな事をすべきじゃないって分かってるんだ」

「…?」

ぽつりと語りだした円堂を鬼道は見つめた。まるでそれは独り言のようで、鬼道には理解が出来ない。

「本当は鬼道達が自身で解決しなくちゃならないってことも分かってる。でも、駄目なんだ」

「何を言っているんだお前は」

「鬼道、正直に答えてくれ。…音無もそう言ってた」

「!」

鬼道の喉が急速に乾いてき、驚きのあまり吸い込んだ息はヒュッと鳴った。どくりどくりと熱くなる身体とは正反対に頭の中はすぅ…と冷静になっていく。
今、聞き間違いでなければ、円堂は『音無』と言ったのだ。つまりは春奈の事を。

「円堂…お前は…」

何を知っている。何を知った。何を聞いた。
何を聞こうとしているんだ。

「鬼道…、お前なのか?二年前のあの…吸血鬼っていうのは」

どくり、と胸が不自然に鳴り響いた。





アトガキ
久しぶりの更新に急すぎるだろという苦情が来そうでガタブルしてる私です(^-^)
ようやく二人対面やったね!俺得!
訳が分からないという方はもう暫く見守ってやって下さい!

2010/09/30
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