†@ラス†

□惜しみなくキミ
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何だこれは!!理解不能だ!!


声を大にしてそう主張したいところだが、残念ながら俺の叫びは言葉になる事無く自身の心の中で木霊するだけで終わってしまった。
天井がやけに高い。ベッドがやけに広い。何より、身に纏っていたはずのトライブスーツが大きい。そして、重い。これは一体どういうことかとベッドを飛び降り状況確認しようと思ったが、何故俺は2本の足で歩行が出来ていないのだろうか。それ以前に、何なのだこの白いふかふかは。

普段滅多に使う事の無い鏡の前に立った瞬間、意識が遠のきそうになった。
もう一度言おう。何だこれは!!理解不能だ!!
俺の叫びは声になる事は無く、再び心の中で木霊した。

鏡に映る俺の姿は、普段の俺の足元くらいしかない真っ白なウサギの姿をしていた。記憶が確かなら、この長い耳と言いこの歩き方と言い恐らくウサギで間違いは無いと思うのだが。
耳ともう一つの象徴とも言える真っ赤な瞳は、何故か翡翠色をしていたがその辺りは深く触れない事にしておこう。


「もふもふ…(理解不能だ…)」


そもそもウサギと言う生き物は鳴かない生き物だと記憶している。
言葉を発する以外に、どうやって今俺が置かれているこの状況を伝えれば良いのだろうか。それ以前に、この姿で誰が俺だと分かってくれるのだろうか。

鼻をヒクヒクとさせてこうなった経緯と、戻るための方法を考えたが昨日は何処へ出掛けた訳でもない。それほどの餓えも無かった為にハントにすら行かなかった。ほぼ作戦会議室に籠って次の作戦について、プランを組んでいただけだというのに。

こうしていても始まらない。
とりあえずサーフならば何かいい知恵を貸してくれるかもしれない。アルジラでもいい。ヒートは断固として顔を合わせる事は拒否したい。アイツにバレればろくな事にならんと言うことくらい安易に想像出来る。


「もふ…(俺がこんな姿になるのは不服だ。如何して俺なのだ。如何してシエロでは無いのだ)」


半ば溜め息混じりに呟いて、部屋を出ようとして立ち止まった。
やたらとドアが大きい。まさしく立ちはだかる壁の様だ。センサー式の為、僅か足元くらいしか身長の無い俺にはセンサーは反応せず、ドアは堅く閉じたままだった。

いきなりの立ち往生。が、ウサギとは跳躍力のある生き物だったはずだ。
少しだけドアから離れて勢い任せに駆けるとそのまま飛び跳ねた。


「もふァッ!!(ウラァッ!!)」


ウサギと化してしまったことで、既に俺は俺でなくなっている気がした。

流石と言うべきか、素晴らしい跳躍力のお陰で難なくドアを開ける事に成功すると俺は早速部屋を出てサーフの部屋へ向かう事にした。
いつもならば気にはならなかったが、こうして小動物のサイズになってみて実感する。エンブリオンのアジトは意外と広いという事を。何より通路が広い。そして長い。いや、エンブリオンのアジトで広いという事は他のトライブのアジトは更に広いということか。考えるだけでも果てしなくなってきたのでやめた。

幸いな事に通路で誰とも遭遇する事は無かった。
ホッと胸を撫で下ろしていたが、サーフの部屋を目前にしてすっかり油断してしまっていた。


「あれ〜?イナバシロウサギ?珍しい」


視界がいきなり暗くなり、何かと思い後ろを振り向けば見慣れた空色の髪が視界に入ってきた。シエロだ。
俺を見つけるなり興味深々に、まるで幼い子供のように俺を覗き込み抱き上げる。


「うわぁ〜可愛いなぁ〜」
「もふっ!!もふもふっ!!(やめろ!!放せ、シエロ!!)」


やはり鳴き声も何も無いウサギでは、もふもふする以外に主張するのは不可能。

この際サーフで無くて良い。シエロが俺だと気付いてくれれば如何にかなる、様な気がした。
俺を抱き上げて顔を覗きこむシエロは、「エメラルドグリーンの瞳?更に珍しい」とはしゃいでいたが、一瞬の隙を突いてシエロの腕からすり抜けた俺は精一杯の身振り手振りで主張した。

自身を指差し、額に手を当て、そして瞳の翡翠色を指差した。


「…『俺…理解不能だ……緑…?』…ゲイル?」
「もふ(そうだ)」
「………ふーん。…へ?お前、ゲイルなの!!!!!!???」


一瞬思考の停止したシエロが再起動した直後、アジトを揺るがすほどの叫び声が木霊した。
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