一周年記念

□10年後の想い
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「やっと着いた」

長時間の空の旅で強張った首や肩を軽く動かし、手元にあった紺色の旅行用ケースを持って豪炎寺修也は東京国際空港を後にした。



「十年前と変わってないな」

自宅に着いた豪炎寺は最愛の妹や家政婦のフクと懐かしく談笑した後、自室に戻り中学の頃に使用していた勉強机に座った。木目は10年という長い年月を感じさせない程真新しい感じがする。
椅子に凭れて瞼を閉じてみれば、豪炎寺にとって思い出深いあの場所が鮮明に浮かび上がった。かつてのチームメイトと供に眺めた、あの燃え立つような真っ赤な夕焼けが見える鉄塔広場だ。

「久しぶりに行ってみるか」

それは約束していたわけではなく只の気まぐれであった。そして二人は再び逢いまみえたのだ。



「ブラックで良かったか?」

「ああ、ありがとう鬼道」

真冬の外気に当てられ冷えきった体は直ぐに暖かい珈琲を求めた。ず…、と口内に広がる渋味と苦味が今は美味しいと感じる。学生の頃から飲み始めた無糖も最初は抵抗があったものの、今では慣れたものだ。
互いにベンチに座り珈琲を飲みながら、懐かしの真っ赤な夕焼けを眺める。
何から話せばいいのか。沢山ありすぎて豪炎寺が頭の中で整理していると鬼道の口が開いた。

「いつ、帰国したんだ?」

「今朝だ。ちょうど長期休暇に入ったから、一度帰ろうかと思って」

「連絡をくれれば俺が迎えに行ったのにな」

「仕事中だったら悪い」

「確かに、学生の頃のように自由の利かない身にはなったがな」

ふっと鬼道が大人びた笑みを浮かべる。それは学生の頃と変わらない笑みで、昔は年齢に合わなく違和感を感じていたのに、今ではすっかりその笑みが似合うようになった。

「ドイツでもサッカーを続けているのか?」

「…ああ。正直学業が忙しくて止めようかと思った時もあったんだ。でも、円ど」

豪炎寺は言いかけてハッと目を見開き、ちらりと鬼道の横顔を覗いた。眼鏡の奥の瞼は閉じられていて珈琲を口にしている。豪炎寺はほっと内心で安堵して話を再開した。

「サッカーを、どうしてもやりたかったから。…今でもその選択を間違いだとは思っていない」

「そうか」

「お前はどうなんだ?」

「俺は…」

鬼道は苦笑いを浮かべたまま豪炎寺を見た。その笑顔の意味を悟り、豪炎寺は一言「すまない」と謝ったが、鬼道は「気にするな」とさっと流した。
鬼道は止めたくて止めたわけではないのに、鬼道財閥の後継者として何もかもを封印してきたのに。
サッカーも娯楽も、そして恋も…。

「鬼道、円堂とは連絡を取ってるのか…?」

「……いや」

「何故だ?…やはりあの日の事をまだ気にしているのか?」

ぴくり、と鬼道の肩が揺れる。やはりな、と豪炎寺は嘆息した。
なぁ鬼道、もういいんじゃないのか?自分を許しても、自分に素直になってもいいんじゃないのか?
それを口にしても仕方ないとは分かっているものの豪炎寺にはもどかしく、口惜しかった。

「…鬼道」

「俺は、あいつを傷付けた。例えそこにどんな理由があろうとも、俺は私欲の為にあいつの気持ちを傷付けたんだ」

「だがそれは互いを思っての事だったはずだ」

「…何故そんな言葉がかけられるんだ豪炎寺、お前にとって俺は」


コイガタキダッタハズダ


帝国時代のような鬼道の冷たく鋭い視線が胸にぐさりと突き刺さった気がした。どくり、と脈が速くなったような気がする。

「…そんなつもりはなかった、ただ俺は」

「ならば完全にその気持ちは消えたと?」

「…何が言いたいんだ」

「お前は俺に気を遣って自身の気持ちを隠している。なのにお前は、まるでヨリを戻せと言っているように聞こえるが?」

柔らかな諭すような口調だが、その裏の刺々しい思いに察しの良い豪炎寺は気付いていた。つまり鬼道は気に入らないのだろう。

「なら腹を割って話せと?」

「……、問いに問いで返すのはマナー違反だ」

先程までの荒々しい雰囲気が霧散したかのように鬼道は苦笑を漏らしたが、豪炎寺は目を丸くして鬼道を凝視していた。ああ、彼は精神も成長したんだなと改めて実感した。
…笑って済ませれる話ではないだろうに。

「豪炎寺、俺は正直に言うとまだアイツを忘れられん」

「!」

「義父さんから薦められた何件もの見合い話を断ったのも女々しい未練があったからだ」

「鬼道…」

「だからといって、傷を舐め合う所業等したいとは思わん」

「同感だ」

互いに笑いながら珈琲を啜る。最初熱かった缶は知らず知らずのうちに温(ぬる)くなっており、それがこの真冬の外に自分達が長時間いたことを物語っていた。

「しかしこう偶然が重なると、後一人もやって来そうだがな」

ふっと笑みを浮かべた鬼道に豪炎寺も笑い返し頷いた。
正直鬼道も豪炎寺も彼に再会するのは、あの真夏のアスファルトの様に熱くて熱くて焦がれ狂うような想いがまた疼くのではと怖い。
しかしどこかで彼に再会したいという切望もある。
矛盾した思いに二人が苦笑を浮かべた時だった。




「あれ…鬼道と豪炎寺?おーい!おーい!!」


夕焼けに染まった変わらない太陽の笑顔と希望に満ち溢れた声に、鬼道と豪炎寺は互いを見合いぷっと笑った。



後書き
「10年後パロで偶然再会したブレイク組」
という素晴らしいリクエストを頂き、長時間かけた結果このような残念な事になりました←

鬼道さんは流石にゴーグルは止められたと思います(笑)彼財閥の跡継ぎなので世間帯とかいちいち気にしてそう(笑)
豪炎寺はドイツでサッカーも医学も頑張ってそうですね。知り合ったストリートの子供にサッカーを教えてそう(笑)

キャプテンはやはりプロに昇格です。
しかしうちの嫁達は本当にキャプテン大好きだなぁ。設定として豪炎寺→→→←キャプテン→→←鬼道でしょうか(笑)


それではかず壱様、大変お待たせいたしました!
一周年リクエストありがとうございました!
これからも宜しくお願いいたします!

2011/1/21
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