銀
□帰路
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「気付かない振りをするもんですぜ」
見えた顔は、はっきりと歪んでいる。
綺麗な筈の髪は、少し汚れていた。
「ごめんな」
そんな総悟と向かい合う俺は、笑っていた。
「ごめんな」
もう一度言って、軽く頭を叩いてやる。
俯いた顔はそのまま近付いてきて、俺に一瞬口付けた。
「すみません」
その声も、顔も、悔しがり、泣いていた。
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俺は一人で屯所の前に立っていた。
「「副長ぉおお!!」」
半泣きの隊士達が駆け寄ってきた。
「よく、よくご無事でっ!」
「傷が…っ」
次々に騒ぐ隊士達を押し退け、屯所内に入る。
「局長がお待ちです!」
俺の周り以外は、静かだった。
「…監察。場所教えるから、行って来い」
そいつらは無言で俺の言葉に頷き、直ぐその場を離れて行った。
応急処置だけを受け、局長室へ向かう。
無意識に胸ポケットを探り、最後の煙草は、あの時捨てた事を思い出した。
*END*