銀
□禁煙
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*禁煙*
「あれ?」
土方と擦れ違った際に沖田は素頓狂な声を上げた。
鬱陶しげに肩越しに振り向いた土方に鼻をひくつかせながら近寄る。
「アンタ、煙草止めたんですかい?」
買い置きを切らしたとかでその口に煙草が無いことはたまにあるが、臭いは残る。
でも今は明らか全体に染み付いた臭いが薄まっている。
「元凶が何言いやがる」
「俺だけじゃねぇですぜ」
あまりに意外そうな沖田の様子に土方は眉を吊り上げる。
ニコチンを断って早二週間。
いい加減苛々が限界で、忌ま忌ましげに唇を噛んだ。
「アンタの煙草への情熱はそんなもんだったんですねぇ」
「…けっ」
こちとらハメック星まで行ってきたんだっての!
そう反論するのも面倒で、適当に肩をすくめて土方は再び前に向き直る。
しかし歩き出して数歩、肩を叩かれた。
「あぁ?!」
もともと土方の堪忍袋の緒は長くない。
そこに強制的な禁煙が加わればあっさりとそれは断ち切れる。
青筋を立て、怒声とともに勢いよく振り向いた。
けれど予測したよりも沖田の顔が近くにあり、土方は一瞬硬直した。
続く筈だった文句も柔らかい何かに口を塞がれたことによって押し留められる。
数秒後にゆっくりとそれは離れていって、漸く口付けをされていたことに思い当たった。
瞬時に土方の頬が赤く染まる。
「てっめぇ…っ!!」
「不意打ちにはちょうど良いですねぃ」
「ふざけんな!」
「何を今更。初めてな訳じゃあるまいし」
「そこに直れえぇぇぇっ!!」
振り上げられた刀を軽々とかわす。
怒りも含め真っ赤になる土方に対して、沖田は楽しそうにニヤリと笑った。
*END*