お題

□あなたの腕の中、震えるわたしの心。
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私は、大沢結祈。
いたって平凡な高校二年生。

そう、三日前までは…。



手短に説明すると、頭痛が我慢できなくて、ベッドで寝かせてもらおうと保健室に行ったところ、運悪く伊達政宗の邪魔をしちゃって、その場で捕まり、ペットという名の下僕になってしまったのだ。


この時ほど、自分の運の悪さを呪ったことはない…。

それからというもの、伊達政宗は私のことを『Kitty』なんて呼び、休み時間のたびに現れるもんだから、周りでは私達が付き合い始めたのでは?なんて言われている。

それって、思いっきり間違いですから〜!!って叫んでやりたいけど、叫んだら酷い目に遭わされるんだ……きっと…。


「ねえねえ結祈〜。あの伊達くんと付き合ってるってホント〜?
伊達くんって、女遊びが激しいって聞くからね〜。アンタも遊ばれてるに決まってるよ〜。
絶対別れた方がいいって!」


あぁ、クラスメートよ。
君は大きな誤解をしている。

でも、付き合ってるってことは大きな間違いだけど、遊ばれてるってのは案外そうなのかも…。
何せ、ペット扱いだし…。


クラスメートに言われたことを思い出し、ブルーな気分でいてたら、伊達政宗が私を呼ぶ声がした。


「Hey Kitty!ランチにするぞ!
購買に行ってパン買って来い!甘いのはいらねぇからな!」


気づかないうちにお昼休みになっていたらしい。

ペットという名の下僕になって以来、なぜかお昼ご飯を伊達政宗と食べている。

まあ、お昼休みになった途端現れるから、逃げ出すタイミングを逃しているってのがホントのとこなんだけど…。


伊達政宗が、特定の人とお昼を食べているってことで、付き合っているという噂になっているけど、これのどこが付き合っているように見えるんだろうか?

今だって、パンを買って来いと言ってるし、なんか注文をつけてるし、どう見ても、ただのパシリじゃないか…。

休み時間に来るのだって、先生に頼まれた仕事を私に押し付けにきたり、面倒事を頼むというか、押し付けにくるだけなのだ。


「屋上にいるから、買ったらお前も来いよな」

そう言い残し、伊達政宗は教室から出て行った。



ふぅとため息をつき、重い腰を上げ購買に行くことにした。






購買は、戦場だった…。

数が少ないパンを買い求めようと、多くの生徒が押し寄せていた。

(こんなに生徒が来るのわかってたら、もっと多く置いてくれたらいいのに…)

と心の中でつぶやく。

買えなければ大変だと、私もこの数が少ないパンをゲットするべく、戦場の中に足を踏み入れた。



(はぁっ、はぁっ…)

人混みに塗れていたせいで、息が上がっている。

なんとか、たまごサンドとソーセージパンをゲットでき屋上に向かう。

そういえばお金をもらっていない。
今の今まで忘れていた。
後で絶対返してもらおう(返してというのが怖いけど、こっちにしたら死活問題である)




屋上のドアを開けると、誰もいなかった。
周りを見渡してみるけどいない…。

(あれ?伊達政宗がいるものと思ってたのに…)

いると思っていた人物がいないことに、ふつふつと怒りが湧いてきた。

(こっちは、あの戦場の中でパンをゲットしてきたっていうのに、なんでいないのよ!
アンタが屋上に来いって言ったくせに!)

怒りのせいで、思わず持っていたパンを握りつぶしそうになった。


「おう、遅かったなKitty…。待ちくたびれたぜ」

声がした方を向くと、伊達政宗が給水塔のところにいた。

通りで、周りを見渡してもいないわけだ。

給水塔は屋上の端のところにあって、細いはしごを登ったところにある。

遅かったと言われ、お前のせいだという意味合いを込めて、ギンっと伊達政宗を睨みつける。


「怖い顔してねぇで、お前もこっちに来いよ。ここ、風が気持ちいいぜ」

いつものニヤッとした笑みではなく、今まで見たことない、ホントに楽しそうな笑みを向けられて、文句を言ってやりたい気持ちが収まってしまった。

どうせ、パンを持っていかなくてはならないしと思い、給水塔のはしごに足をかけて登り始めた。



登り終えて、足を踏み出そうとしたところでつまずいてしまった。

(私のドジ〜!!)

コンクリートの地面の痛みがくると思っていたのに、やわらかいけどしっかりしたものにぶつかった。

つぶっていた目をおそるおそる開くと、目の前は真っ白で、すぐにそれは伊達政宗のシャツだと気がつく。

私は、伊達政宗に抱きしめられた状態になっていた…。


「危ねぇな…。Kittyらしいっちゃらしいけど、ケガなんてしたらイヤだからな…」


(なっ、何!?そ、その愛しむような目は!?いつもの目と違うんじゃ!)

今まで私に向けられていた視線と違って、思わず動揺してしまう。





あなたの腕の中、震えるわたしの心。
(コイツ、なかなか抱き心地がいいな…)
(何!?この胸のドキドキは!?
きっと、こけると思っていたのに、こけなかったから、今になって心臓がドキドキしてるんだわ!そうよ!そうに違いない…)
 

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