ホスト篇スピンオフ
□序
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私が足を止めたのは父の部屋の前だった。音は、父の部屋からしているようだった。
ガリ、ガリガリ、ガリガリ。
障子戸一枚隔てた向こう側で、何かが起きていた。
私は、人差し指を伸ばし、障子戸をそっと突いた。障子はつっぱったのち、私の力に負けてやわく破れた。
つまさき立ちし、私は自らが作った小さな覗き穴に瞳を合わせた。
中では、小さな雪洞がひとつ灯っていた。その手前に父がいた。着物の上半身だけを脱いでおり、はだけた裾からは足が見え隠れしていた。そして何かに、体を押しつけていた。一度身を引いた父が勢いよく体を押しつけると、何かが軋み、例のガリッと言う音がした。
さらに背伸びをした私は、父が掴んでいる影へ目を凝らした。