ホスト篇スピンオフ

□【3】
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一度受け入れてしまえば、後は身を任せるだけだった。私は生まれつき、闇に愛された人間だった。そして自分も、狂おしいほど闇を愛していた。


「闇」とは。

たとえば今にも崖下へ落ちそうな人間がいたとする。その人間は両手でなんとか地面を掴み、自分自身の重みに耐えている。そこへ偶然現れた私に言うのだ。「助けて」と。他の三人の兄弟なら、もしくは、良識ある人間なら、迷わず手を差し伸べただろう。否、私も手を伸ばすことはする。しかし私がしたいのはその人間を引き上げ命を救うことではない。踏ん張る指を一本ずつ引き離し、その度に歪んでいく顔を上から観察することだ。その時、私に向けられる眼、吐かれる言葉。それを思うと恍惚感が湧く。



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