□暑中見舞い申し上げます。
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1、かき氷



寒けりゃくっつきゃいい。
なら、暑いのにくっつきたい俺たちはどうすりゃいい。

屯所に冷房なんて気の利いたものはない。それでも、去年までは夜まで待てば涼風が吹き込んできた。頬や首筋にさらさらとあたる心地よい風を受けながらお前に抱かれることができた。

それなのに。それなのに今年ときたら。テレビでは連日「今年一番の暑さ」との文言。挙句の果てに、四十度だと !?  人間なら病だ。気象なら、いったいなんなんだよ。「異常」なんて言葉で片づけないで治せよ。頼むから誰か治してやってくれ。地球サイズのヒエピタ張ってやってくれよ。それか地球サイズのかき氷食わせてやってくれ。そう、あんなふうにシロップたっぷりの今流行りのふわふわかき氷を……

見上げた先に総悟がいた。自分の顔より大きいかき氷にスプーンを突き刺し口に運んでいる。
自室でシャツを汗でびっしょり濡らした恰好で大の字に寝そべっている俺を立ったまま見下ろしている。


「よこせ」


何か思うより先に声がでた。
そして、声を出しただけでこめかみのあたりに汗がじわっと湧いた。


「土方さんったらぁ。解ってるくせにぃ」


言いながらものすごい速さでかき氷を口内へ運ぶ。腹黒い笑みと出遭って、お前の設……本来の姿を思い出す。


「俺ァ、喰いたいのに喰えなくて苦痛に歪むあんたの顔拝みに来ただけでさァ」


「てめぇ……うう。怒鳴る気も起きねぇ」


怒り、なんて。そんな暑苦しい感情抱いてたまるか。こちとら汗まみれで火照りまくった体が今にも融け出しそうなんだ。無理。キレるとか、怒鳴るとか、無理無理。


「は〜〜。暑いのにくっつきたいとか思ってた自分ぶっ殺してぇ。ということでさっさと出ていけ。俺は夕方までここで暑さ凌ぐんだよ」


お前に背を向けるように寝転んだ。そこで気づく。


「……あ。俺とんでもなく余計なこと口走った」


しかし、羞恥を感じることさえも煩わしくて、そのまま目を閉じた。仕事は午前中に片付けた。夕方までの空き時間をどう使おうが俺の自由だ。たまにはぐだってもいいじゃん。鬼だってぐだるんだよ。猫みたいに微睡みたい時だってあんだよ。


「土方さん見てくだせぇ」


肩を掴んで振り向かせられた先に、んべっと舌を出したお前がいた。


「黄色」


「ん。レモン味でさぁ」


ぐっと圧し掛かってきたお前が俺の口の中にするりと舌を入れてくる。


「んう」


ひんやりした舌が気持ちいい。思わず首の後ろへ腕を回し、ぎゅっと引き寄せた。

レモン味。でも、すぐに総悟の味に変わる。ひんやりも、じんわりに変わる。一瞬の涼だった。触れ合えばそれだけ遠のいていく涼なのに、離れがたいなんて。

怒りも、羞恥も、煩わしいほどの酷暑なのに。どうしてお前だけはするりと俺の中におさまってしまうんだ。


「暑いのにくっつきたいんだろ」


「それ失言だから」


「本心の間違い」


「だから、失言なんだろ」


「ふふ」


「んだよ」


「二人で、汗だくになろっか」


俺は、自分の胸を叩く。小さく叱責する。なんだよドキッて。ばか。

机上のかき氷が溶けてしまう。一口くらい、喰いたかったのに。お前から目が離せない。体も離せない。たぶん、俺が一番欲しているのはレモン味の氷じゃなく、今喰ってるこれ。





End(30.7.26)
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