隊
□いちゃたん
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【せっかく寒いので】
せっかく寒いので燗酒にしましょう。
居酒屋にて。俺の隣に腰掛けたお前が嬉々として熱燗を注文した。
ほどなくして出された徳利をおしぼりで包むようにして持つとお前は俺に酌をした。酌を受けながら俺は、お前が口にした言葉を反芻する。
せっかく寒いので。不思議な響きを持つその言葉は、俺の胸に引っかかり、たよりなげにふらふらと揺れた。
せっかく寒いのでホットココア。
コンビニで煙草を買おうとしたら、俺の脇から現れたお前がレジに缶ココアを置いた。店を出ると、缶を大事そうに両手で抱えて歩き出した。うれしそうな横顔を見ながら俺は、また言った、と思う。
せっかく寒いので風呂の前に。
三度目に聞いた時は目的語が省かれていた。風呂の前にいったい何をするんだと振り返ったら、俺の口は塞がれていた。
「なぁ」お前のキスを受け止めながら俺は言う。
「寒いの好きなの?」
唇を俺の耳元へ移したお前は、「好きなわけないじゃないですか」と言う。
「でも、」俺は耳を噛まれたことで言葉を詰まらせつつも、
「せっかく、って……」ここ数日胸に引っかかっていた言葉を口にする。
「あと、それ言う時うれしそうだし」
お前の手がシャツ越しに俺をなぞる。シャツの上からでも、ひんやりとした感覚がある。だけど触れ合っているうちに、お前の体はだんだんと熱を帯びていく。
「寒い時に手に入れるあったかいが好きなんです」
「さむいときに、てにいれる、あったかい」
「ん。そう」
頷いたお前が手をシャツの下へ滑り込ませる。まだすこしつめたい手は、俺の熱と融けあうようにして温まっていく。
「なぁ」
「ん?」
「今も?」
不思議そうな眼と見つめ合いながら、
「今も、好き?」俺は尋ねる。
お前は微笑して、今が一番好きだよ、と囁く。
End(2019.1.23)