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□五月の風にゆれる
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五月の風にゆれる洗濯物が好き。誰かに着られている時よりものびのびとしていて気持ち良さそうだから。とくに近藤さんの褌なんかがそんな感じ。そこに染み付いた気味の悪い染みなんかも、陽の光が上手に隠してくれている。
縁側に寝転んで、物干し竿に干された大量の洗濯物を眺めている。ほんとうは昼寝の予定だったんだけど、あんまり気持ちよさそうな光景があったから。アイマスクはターバンみたいに俺の前髪を上げたまま、そこでじっとしている。
どこからともなく、とことこと三毛猫がやってきた。ひょいと縁側に飛び乗ると、同類にでも見えたのか、俺の足元でまるくなった。爪先でちょいとつついてみたけど、物怖じすることなく、猫はそこにとどまった。
俺たちは言葉を交わすことなく、ただそこにいて、ぼけっと洗濯物を眺めていた。
やがて、騒々しい足音が俺と猫との時間をかき乱す。
「総悟ォォ!!」
耳が痛くなるくらいの声で発声されたのが俺の名前だなんて信じたくない。
襟首をつかまれ、俺はそのままずるずると室内へと引きずられていく。ああ。穏やかな風景が遠ざかっていく。猫は、俺の存在なんて気にも留めていない様子でまるまり続けている。
猫になりてぇ。つぶやいた俺の頭上から岩のようなげんこつが振り落とされる。
「ひでぇや。あんまりでい」
「どの口が言ってやがんだ」
「人の休憩邪魔するなんざ」
「テメェのは休憩じゃねぇだろうが! サボリっつうんだバカ」
「そうぷりぷりせんでくだせぇよ。誕生日に恋人とずっと一緒にいたいっていう、あんたの気持ちもわかるけどさ」
げんこつ再投下に備え、俺は両手でさっと頭上を護った。しかし、待てども攻撃は繰り出されない。
後方をちらりと見やった。尖らせた唇が、ぼそっと言った。
「う、うるせぇ」
「え。あの……」
それは、俺まで思わずどもってしまうほどの、あんたの、
「……ちくしょ」
デレである。片手で顔を覆っているが、俺に向いているのは耳の後ろのあたりなので、赤いその部分がはっきりと見て取れる。もう一回言う。デレである。
俺はさっと前に向き直ると、両手で顔を覆った。
「もうそういうの、ほんっとやめろよおおお」
足をバタバタと暴れさせながら、俺はあんたに引きずられていく。あんたはあんたで、すこし速度を落として、俺をやさしく丁寧に引きずっていく。