□五月の風にゆれる
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あんたの誕生日って言っても、二人揃って休みがとれたわけでも、高いレストラン予約したわけでも、ホテルのスイートルームを予約したわけでもない。通常通り、仕事である。否、通常以上の仕事である。世間は大型連休中なのである。


『なんかしたいこととか、食いたいもんとか、行きたいとことか、ないの』


『そういうのはいい』


即答だった。


『じゃあ、どういうのがいいの』


『別に。ただ』


『ただ?』


じっと答えを待つ俺を、あんたは抱き寄せた。そしてぎゅっと抱いた。そうされた俺は、それ以上、食い下がることができなくなった。一瞬で、二人の間に言葉が不要になった。そしてそれがお互いにわかって、お互いにわかったのがお互いにわかった。
だから俺は頷くことさえしなかった。ただ、そのまま眠りについた。

それが昨晩。あの愛しい男は今も健在である。仕事と私情を切り離せる男だと思っていた。だけど、ほんとうは違う。その他のことなら、それができるのかもしれない。だけど、唯一、俺のことに関しては、違う。あんたは混同する。俺への愛を、その他のどんなことにも。どんなことでも。塗りつぶすことはできない。分け隔てることはできない。ふふん。俺はそのことが得意で、すこしだけ心配。

パトカーの中。赤信号のたびにキスしてるお巡りなんて、いやだろ。





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