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□見てられない
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廊下で見知った顔を見掛けた。
その隣には見慣れない男がひとり。
確か留学生の、ベベとかいったか…



「月葉じゃないか」

「あ、真田先輩。いま帰りですか?」
「いや…これから部活なんだ」
「そうなんですか……頑張ってくださいね」


そう微笑みながらも少し残念そうにする月葉。
その表情がどうも苦手だ。
なんだか知らないが胸が痛くなる。


「ほら月葉殿ッ!ハヤクハヤク!」
「ぇ、あ、ベベ…;今日はちょっと…」
「ノンノントハイワセナイヨ。今日ハ家庭科室へレッツゴーゴーゴー!」
「うーん…;」

留学生に押され困っているようだった。
でも後輩たちのことに割り込むことは出来ないので止めることはしない。
…けどなぜかムカつく。


「月葉殿ッ」


留学生の手が月葉の手を掴むのを見て、自分のなかで何かが切れた。

気付いた時には腕の中に月葉を引き寄せていた。


「悪い……今日は一緒に帰る日だったな」
「真田先輩…?」
「帰る支度をするからお前も来い。だから、今日は月葉は借りてくぞ」


無理に押し切るようにその場から離れる。

手を引いてしばらく歩く。





「真田先輩」
「ん?あ、すまん…」
「いえ…あの、ありがとうございました。助けてくれたんですよね?」
「……いや」

微笑みかけられ頬が火照るのがわかる。
どうやら彼女の前では自分は素直になれないらしい。


「…自分のためにしたんだ」
「え?」
「あの留学生とお前が一緒に居るところを見たら、…なぜだか腹が立ったんだ」
「………」
「ムカつく、って思った。単純にな。…理由は本当にわからないんだ」


壁に体重を預け、彼女に笑いかける。
うまく出来ていないかもしれない。うまく笑えてないかもしれない。
もしかしたら自分はいま、とんでもなく情けない顔をしているのかもしれない。
なんだかそんな気がした。
自分の気持ちさえわからないのだから。


「あの、真田先輩」
「なんだ?」
「それ…嫉妬してくれてるんですか?」


“嫉妬”…?
俺が?
だれに?
留学生にか?

妬んでいたのか…?
だから腹が立ったのか…?


「そ、そうなのか?」
「ふふっ。私にはわかりませんよ。真田先輩じゃないと」
「そうか……そうだな…」


急に焦ってしまう。
変に思われていないだろうか。
だって嫉妬しているということは……
つまり、俺が月葉のことを…


「……っ?!;」
「真田先輩?」
「あっ、いや、その……そっ、そろそろ部活に行かなくてはならんな!」
「そういえば部活でしたね。一緒に帰れるかと思ってました」


また、だ。
俺の苦手な寂しそうな微笑み。
今日はなぜ苦手なのかもわかった気がする。要はそんな顔をしてほしくないのだ。

……好き、だから。


「そんな顔をするな。…その、寮で待っていてくれ。そう思うともっと頑張れる」
「…ふふ、わかりました」


俺の好きな微笑み。

手を振り、去っていく彼女の後ろ姿を見つめる。
出逢ってからまだ間もないのに、彼女はどんどん自分のなかに入り込んでくる。
今ではもう必要不可欠な存在にまでなってしまった。

彼女と居るといろいろなことに気付く。気付ける。
今日も大事なことに、一番大切な気持ちに気付けた気がする。
…明日からまともに彼女の目を見れるだろうか。

素直じゃない自分にも、気付いた。







「……部活、行くか」







end

真田先輩と女主人公
の絡みは大好きです。



 

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