〜哀しき神童の願いごと〜
□誘拐
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徳島県西部、吉野川の支流祖谷(いや)川と松尾川の流域。山地に囲まれた祖谷渓(いやだに)の峡谷に、掛けられた何本も網みこんだ太い蔓(かずら)で、出来た橋。
名をかずら橋(正式には蔓橋)と言う。この橋は平家の落人伝説で知られるが、それはまた別の機会に…。
ギシッ…、ギシッ…、
「うわぁ、なんかかなり危ない音がするぞ…」
「別に千切れはしないし、大丈夫だろう…」
足元を支えている、連なった細い木の間を覗けば、かなり下の方に早い流れで川が流れている。夜と言うことで薄暗く、軽い不安が募った。
「なんかいる…」
音しかしない川の中で、時折、バシャッと言う水音が聞こえた。
「魚だろう。ここら辺は鮎とあめごがよく釣れるらしいからな…」
前に進みながら、冷静に呟く。
ちなみに鮎とあめごは塩焼きが一番美味しく、天然は特に絶品です。
ギシッ…ギシッ…
清らかな川の音に、軋む音が混じる。と、烏森が無言のまま真ん中ほどの所で立ち止まった。
「どうした?」
急いで追いつき、烏森の視線の先を追う。目がいつも馴れていたせいか、視界に写ったものをはっきりと認識出来た。そこには人がいた。