そなたの巻物
□偽りの世界に惑いし花 〜偽りの声〜
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雲に隠れていた月が顔を出して、本来の明るさを取り戻す。
それを眺める者の気持ちも、自然と明るくなるのだった。
「今夜満月だったんだな、斑尾」
『綺麗だねぇ〜』
若干14歳(今年で15だが)となる主人と共に、今宵空に浮かぶ芸術を堪能する。
見ている内に、悩みや、暗い出来事。全てが綺麗に流されていく気がした。
「あんた何してんの?」
聞き慣れた声に現実に戻され、声の主へと目を向けた。
「月見。時音も見ようぜ」
「別にいいけどちょっとだけよ」
時音は良守の隣に腰を降ろす。
見れば汚れなき光を放ちながら、欠ける事もない満月が顔を見せていた。
見ている内に心が奪われそうだ。
「綺麗ねぇ・・」
その美しさにあまり難しい感想は見つからない。
時音は視線を月から良守に移す。
「・・!」
月に照らされて、元々白めだった肌がさらに白くなっており、漆黒の目と髪が良く際立っている。
その姿が、あまりに綺麗で時音は放心したままずっと見つめていた。
「あの・・時音?」
向けられる視線に自然と頬が赤くなる。
「あっ、ごめん!」
時音は良守以上に赤くなりながら再び目を月へと移そうとした。