そなたの巻物

□舞い散る桜に幾千の思いを
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「待てコラーッ!!」

夜の薄暗くなった校舎に、良守の声が響いて、普通以上に大きく聞こえた。

『きゅぃ〜っ・・』

そんな良守に追われている今宵の侵入者は、涙目になりながら宙を飛んでいる。
鼬(いたち)のような容姿をした妖は下半身を大きく降りながら前に進んでいく。

「結っ!結、結!!」

『きゅぃんっ!きぅ〜

犬に似た弱々しい声を上げながら、良守の大きさがバラバラの結界をなんとか避けていく。

『きぅっ!きぅっ!』

「・・・・・」

目筋に涙を浮かべて必死に逃げる妖を見ている内に様子がおかしな良守に斑尾は話しかけた。

『情けをかけるんじゃないよ。いくら小物でも烏森の力を受けているんだ。さっさと滅っさないと変化しちまうよ』

「Σうっ・・。わかってる・・けど・・」

急にしおらしくなる己の主人に斑尾は呆れてため息をついた。
良守はこの烏森を守る番人にしては場違いな優しすぎる性格の持ち主である。
純粋な誰もが憧れるような綺麗な心を持ち、まだまだ未熟だが力がある良守に惹かれる者は少なくない。(斑尾もそのなかの一人だったりする)しかし、それゆえトラブルメーカーでもあって時たま危険な状況にしてしまうのだ。
本人も、自らの情けが危険を招くことをわかっているはずだ。
しかし・・

「斑尾、ごめん。やっぱり無理かも・・」

『・・はぁ』

良守の言葉に海より深く呆れながらも、心はいつもどこか暖かい。

『きゅ〜〜

侵入して早めに見つかったので、この妖はあまり長居はしていないはずだった。
良守はそれを頭に入れると、妖の小さな身体の下に結界の位置指定をした。
そして・・

「け―――つっ!!」

『きゅ?きゅい〜〜〜〜!!?

良守の空に向かって放った結界によって、妖はかなり遠くに飛ばされてしまった。

上手く遠くへ飛んで行った妖を見て、良守はガッツポーズを決める。

「よっしゃあっ!」

「『よっしゃあっ!』じゃない!!」

――ごーんっ!

鈍い音と共に後頭部に走る激痛に良守は座りこんだ。

「なっ、何すんだ!?この暴力女ーー!!」

「誰が暴力女よっ!?」

――がーんっ!

「ぎゃふっ!?」

再び後頭部に時音の結界が上手い具合にヒットする。
良守は地面に倒れこむと、しばらくそのまま身体を預けた。
夜の温度に冷たくなった地面が良守の体温を奪っていく。
良守は仰向けになって、冬の空を眺めた。
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