〜哀しき神童の願いごと〜

□旅の途中で・・
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「もうこんな時間か!穢恋、主様の所に行くぞ」

「わかったよ〜だ」

まだ拗ねていながらついて来る穢恋を確認し、二人は屋敷の中に入った。



薄暗い部屋。灯りと言えば、部屋の角にあるろうそく一本のみ。
簾(すだれ)の向こうにうっすらと動く影があった。それは蒼幽鬼の主の存在を示していた。

「そう。烏森が騒いだんだ?」

高い女特有の声が部屋によく通る。簾の前で頭を二人は頭を下げたまま、穢恋が烏森での事を伝えた。

「はい。弓矢を胸に射して、そのまま連れて帰ろうとしたのですが、その途端烏森の視界が異常に怪しくなって、騒ぎだしたのです」

いつものおちゃらけた口調を敬語へと直す。
簾の向こうで、扇子がぱちんっ!と音を立てる。軽く肩を上げた二人だったが、表面状は大して変わらない。

「面白い土地。そう簡単には渡さないって訳か…」

クスクスッ……

女の不気味な笑い声が、やけに耳に響く。人を酔わせるような甘い声は、聞いていると不思議な気分になった。

「やっぱり、喰べたいなぁ…。烏森のお気に入り…。喰べたらどんな力が手に入って、どんな味がするんだろうなぁ?」

「必ずや、あなた様の元へ」
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