〜哀しき神童の願いごと〜

□心に秘めた思い
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二人が顔を合わせれば、やはり始まった喧嘩。
こんな状態でもやれるのか、とある意味拍手を贈りたい。

「ちょっ…と、失敗したみたいだね…」

周りを灰色に染める砂埃の中から聞こえた低い声。
ぎょっ、としてみなの視線が一点に集まる。
本来の明るさを取り戻してきた雪村家の庭に二つの人影が浮かび上がった。

「何をやっておるのだ、時守…。羽織が汚れてしまったではないか!」

「いつも走り回ってる人間のセリフじゃありませんね…」

固まっている一同をよそに、おかしな会話を繰り返す時守と烏森。
二人の後ろには、小さく絞んでいく黒い穴。それは範囲を狭めると、やがて完璧に消えてしまった。

「やぁ、はじめまして。と言うべきかな?」

自分たちに向けてさわやかな笑顔を見せる時守に、みなの肩が上がる。
その様子に苦笑しながらも、時守は自分と烏森の自己紹介を始めた。

「開祖の間時守です」


「粗茶ですが…」

「いえ、ありがとう」

修史に渡された緑茶を礼儀よく飲む、時守。その間にも大量の視線が向けられているが、まるで気にしていない様子。

「そんなに固くならなくていい。信じられないのはわかる」
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