単発小説館

□みんながいたから
1ページ/4ページ



 私の名前は、キャプテン・オリマー。宇宙を股にかけるホコタテ運送の社員だ。
今は、会社の社長とともに、「とある星」に来ていた。話が長くなるので簡潔に言うが、会社の借金を返すためと、遭難してしまった私の後輩、ルーイ君を探すためだ。
 前者は、すでに達成された。それどころか、借金の倍以上の利益を出すことに成功したのであった。

そう、私たちの大切な仲間たち――ピクミン達の助けを借り、この星に眠る『お宝』を回収することによって。

本当に、彼らには感謝してもしたりない位だ。私がこの星に不時着したときも、無事に脱出できたのは彼らのお陰だった。一人では運べないパーツもお宝も、彼らの力で運ぶ事が出来たし、凶暴な原始生物に立ち向かうことも出来た。

 ただ――犠牲が無かったわけではない。私の不注意や判断ミスで、失われた命もあった。それなのに、ピクミン達は最後まで私についてきてくれた。
家族と離れ、心細かった私の心を癒してくれたりもした。
もはや、ピクミンたちは私にとって、家族と同じになっていた。

だが、出会いがあれば別れもある。
所詮、私は「異星人」。あまり、他の星の命と関わっては行けない。
生態系、進化の道筋、食物連鎖…。それらに影響を与えすぎると、下手をすれば星を滅ぼしてしまうなんてことになりかねないからだ。そのあたりのルールは、パイロット組合で散々聞かされて来たことだ。

 それに、もう一つの目的…ルーイ君を助けること。それがつい先ほど達成されたのだ。
ショイグモの一種、ヘラクレスオオヨロヒグモにとりこまれていたルーイ君を、ピクミン達の力を借りて救出した。驚いたことに、彼はクモの脳をジャックしていたらしい。
ドルフィン初号機が皮肉からか、「蟲の王」などと呼んだが、虫と波長が合うとは…
ある意味興味深い。
それに、ジャックしていたといっても、あれは思い通りに操っていたというより、クモがルーイ君の内なる怒りや攻撃性に感化されていたと言った方がいいかもしれない。
彼も私と同じく社長には少なからず不満があったようだし…だが、彼が一番恨んでいたのは、私だろう。


私が彼を遭難させてしまった張本人なのだから。


 私が遭難してしまった時には、まだ希望があった。大破したとはいえ、エンジンが生きているドルフィン号があったし、ピクミン達がそばに居てくれた。
生命維持装置の期限が迫っていたが、パーツさえ回収することが出来れば、脱出できることが分かっていたからだ。
 だが、ルーイ君は…。
宇宙船もなく、原始生物と戦うすべもなく、仲間もいない…。そんな孤独な日々を過ごさなくてはならなかった。おとなしい人柄だったが、心の底ではさぞかし私を怨んだだろう…。



 ただ、一言言わせてもらえば、彼がゴールデンピクピクニンジンをつまみ食いする(ちなみに、社長はその事実を知らない。)なんて事をしなければ、またこの星にとんぼ返りすることもなかったのだ。

それに、ルーイ君が遭難しているときに綴ったであろうレポートには、ひたすら詳しい原始生物の食べ方が書いてあったし……なんだアイツ!!なんだかムカムカしてきた。今日はもう寝ることにする…ってなんですか社長、………あ、前向いて運転しろって?すみません。




そう。私はいま、とある星を離れ、ホコタテ星に帰路をとっている。

ヘラクレスオオヨロヒグモから救出したルーイ君が衰弱しきっていて、急いで病院で見てもらわないと危ないと判断したためだ。
お宝はもう集めきっていたし、会社も十分な利益を上げることが出来た。

もう、二度とこの星を訪れることもないだろう。

 私は、出発の前にピクミン達を集め、一人(と言った方がいいのだろうか)一人と目を会わせ、声を掛け、抱きしめた。

ありがとう、と。君たちのお陰で、とても幸せな時間を過ごせたよ、と。

ピクミン達は言葉らしい言葉を発しない。だが、私が言いたいことは何となくわかるようだ。
いつもはマイペースなピクミンも、この時は神妙な顔つきで、私を見ていた。



 そして、別れの時がやってきた。私はドルフィン初号機を発進させる。いつものように、ピクミン達を乗せたオニヨンが宇宙船の後をついてくるが、私は知っている。

オニヨンは、大気圏から外に出ることは出来ない…と。

大気圏ぎりぎりで、オニヨン達は名残惜しそうに散って行った。



せめて、もうひと目だけ―――。



私は振り返ると、信じられない光景が広がっていたのだ。

 ピクミン達が、光っていた。

さながら、地上の星のように、空高く飛んだドルフィン初号機からもよく見えるほどに、ピクミン達一人一人が、輝いていたのだ。やがて、その輝きは星全体を包み、惑星のはずの星が、恒星さながらに美しく光り輝いていたのだった。

 ああ、こんなに美しいものを、私は、今まで見たことがあっただろうか―――――。

いろんな命が生きているこの星は、こんなにも美しい。思わず、涙腺が緩んだが、瞳にしっかりと焼きつけるために、私は目を見開いていた。





ありがとう。ありがとう。私は、一生忘れない―――――――。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ