単発小説館

□命がつながると言うのならば
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 コガネグモなどの一部の生き物は、メスに子が宿るとオスはメスに食われてしまう。
オスは、産まれてくる命のために、抵抗もせず黙ってメスの糧になるとか。


 

◆命がつながるというのならば





 子供のころは体が弱くて、田舎のばあちゃん家で療養してることが多かった。そんな俺を心配して、ばあちゃんはいつも言ってたっけ。
 「たくさんたべんと、強くなれんよ。」と。

 ばあちゃん得意の栄養価の高い虫料理を食って育ったせいか、今ではめったなことで風邪もひかなくなった。
正直な話、あの頃の自分にとっては本当に拷問だったな。虫とりが好きだったから、山に行って自分で捕まえた虫を、勝手に料理されて夕飯に出された時はトラウマもんだった。しかも食が細かったから、無理やり口に詰め込まれた。大泣きしながら飲み込んだなぁ。
 まあ、そんなばあちゃんのスパルタ式食生活があったから、今の自分がいるんだけど。


つらいこともあったけど、今ではすっかり虫料理好きです―――。


 とまぁ、思い出にふけるのはこの位にして、現実を見よう。
今、俺はオリマー先輩と、ピクミン達と共に「食神の台所」に来ている。実はここに来るのは二度目だ。一度目に来た時、パンもどきに食われて回収出来なかったお宝を回収するのが目的だ。
 このフロアのお宝は回収し終わった。センサーも反応していないし、ピクミン達ものんびり鼻歌を歌っている。
先輩は、次のフロアに進むための穴を探しに行った。俺とピクミン達はベース付近に待機している。そういえば、先輩について行った紫ピクミンが一匹いたけど、先輩、気づいているのだろうか。















―――いくらなんでも遅すぎないか?別れてからだいぶ経っている。そろそろ連絡があっても良いころなんだが…。
ただじっとしているとお腹が空く。そう言えばこの洞窟にはパンもどきがたくさんいるけど、あいつら美味そうだよなぁ。パンもどき、と言うからにはやっぱりパンの味がするんだろうか。今度先輩と初号機の目を盗んで、こっそり食べてみよう。

 俺が原始生物達の味見をしようとすると、先輩がすごい顔して止めるんだよな。なんでだろう。
食べることは悪い事じゃないはず。俺も、先輩も、原始生物も。食べるという行為をしなければ、命は生きていけない。挑戦しなければ、未知の味に出合うこともないのに。

 「みゃ!みゃみゃ!!」

 突然、ピクミン達が騒ぎ始めた。
まさか、原始生物が襲ってきたのか?!…いや、違う。ピクミンだ。
 先輩が連れて行った紫ピクミンが、一生懸命走ってくる。そして、待機しているピクミン達をかき分け、俺の目の前で騒ぎだした。

「にゃ!ふぁ!みゅー!みゅー!ルーイ!みゃ!!」
「…初号機、なんて言ってるんだと思う?」

 俺は、先輩や初号機のように、ピクミンの表情や感情を読むのが苦手だ。子どもでもいれば違ったのかもしれないけど、あいにく独身です。

『…紫ピクミンは、どうやら焦ってる様です。これは…オリマーさんに何かあった!!…という表情ですね。』
「そう。わかった。」
俺は、笛を吹いてピクミンを隊列に入れる。…99、100。よし、全員いるな。
次に、マップを開いて、先輩のビーコンの位置を確認した。ここからずいぶん遠いところに居るらしいが、死んだり、ダウンしてはいないようだ。

「よし、みんな、行くよ。」
「ぴーゃ!」
















「…ここから反応が出てるな。紫ピクミン、本当にここに先輩がいるのかい?」
「むん、むん!!」
「…でも・・・。」
 誰も、居ないじゃないか―――。

マップによると、ここに先輩はいるらしい。だけど、実際には何もいないし、誰もいない。
マップを信じるなら、自分は今、先輩を踏んずけていることになっている。そんなばかな…。

「ルーイ!にゃ!にゃ!」
 ピクミンの声がした方を向くと、そこにはパンもどきの巣があった。しかもかなりでかい。
「まさか…この中に落ちたのか?先輩が?」
いや、ありうる。
 先輩はしっかりしてそうで、その実結構うっかり者でもある。不注意で、火を噴いたり水にまみれたピクミンは、1匹や2匹ではない。人のことは言えないが。
 仕様が無い。中に入ってみよう。ピクミン達は…一緒に連れて行った方がいいな。まだこのフロアに生物がいるかもしれないし、中でパンもどきに出くわしても、やつらはピクミンを食べないから安心だろう。



 そして、俺はパンもどきの巣にピクミンたちと足を踏み入れた。
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