Shortnovel
□キンモクセイ
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「ユウ!立って!」
「は?何だよいきなり」
「いいから!」
腑に落ちない顔をしたユウは毛布を肩に掛けながら立ち上がり、オレの傍に来た。
そんなユウの肩を抱き寄せてオレはベランダに連れて行った。
「な、何だよいきなり///」
「嗅いで。風が運んでる匂いを」
ユウは少し不思議そうな顔をしたが、オレの言う事に従い匂いを嗅いだ。
“スー”
「ん?この匂い…」
「分かった?正体はあそこにある木だよ!」
オレが指差した先にはオレの住むマンションの向かいにある公園。
その公園の端には小さなオレンジ色の花を咲かせる一本の木。
「…キンモクセイか」
「そう、当たり。
この前偶然見つけてさ、ユウに教えてやりたくて窓を開けてたんだ。…寒い思いさせてごめんな…」
「…べ、別に。オレの為にしてくれた事だろ!
だから謝んな!」
「ありがとう、ユウ…。
ここには数年住んでるけどさ、こんな近くにキンモクセイがあったなんて知らなかったんだ。
日常の変化に気づくのにはたまには立ち止まって周りを見渡すのも大切だなって思ったよ…」
オレが静かな口調で言う言葉を、ユウはオレを見ながら黙って聞いていた。