裏切りは僕の名前を知っている

□裏切りは僕の名前を知っている 第三話
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裏切りは僕の名前を知っている
第三話『心ごと奪い去ってくれるなら』

(特殊な能力を持つ一族…特殊……? 僕には想像もつかない世界…)
 考え事をしながら歩道を歩く夕月。
 ふと、前方で話し込む二人の主婦の片方の肩に掌大の小さいデュラスが乗っているのを見て、息を呑んだ。
 四足歩行の異形の悪魔だ。
(どうして……今までこんなにはっきり見えたことなんてなかったのに)
 思わず一歩後退り警戒するが、夕月に気付いたデュラスが地面に飛び降りて、襲いかかってきた。
 動けなかった夕月を庇い、雷を纏う蹴りでデュラスを弾き飛ばしたのは、刀眞だった。
「刀眞くん」
「クソッ! 不便すぎる……天白め、覚えてろよ」
 刀眞は夕月を背に庇いながらも、苛ついているようで、再び襲い掛かってくるデュラスに睨みをきかせるが、次の瞬間デュラスの身体を小さな稲光が貫き、消滅してしまった。
「あ、ゼスさん」
「大丈夫か?」
 夕月と刀眞、二人に視線を向けるルカは、怪我がないことに安堵する。
 しかし、刀眞が掌を開いたり閉じたりして、力が使えるかどうか確認しているのを見て、注意する。
「トウマ、力は使うな……鞘しかない状態では、安定しないだろう」
「今は取られたばかりだから、いい。明日からは使わないようにする。夕月のこと、頼むな」
 ルカが頷くのを確認すると、刀眞は振り返って夕月に笑顔を見せる。
「送っていくよ、夕月。帰り道はこっち?」
 夕月が歩いていた方向を指差す刀眞。しかし、夕月は返事をせず、刀眞の制服の袖を掴んだまま動かなかった。
「すいません……しばらくこうしてていいですか?」
 僅かに夕月の身体は震えていた。
 刀眞は安心させるように、夕月の頭を撫でてギュッと抱きしめる。
「大丈夫。今の俺じゃ頼りないけど、ル……ゼスがいるから。この人、とっても強いんだ」
「そうなんですか……。刀眞くん、ゼスさん、助けてくれてありがとうございます」
 少し落ち着いたのか、夕月はまだ礼を言ってなかったと、深々と頭を下げた。
「いちいち礼はいいよ。夕月は無防備だね」
「え?」
「俺たちが悪い奴だったらどうする? 知らない人間相手に胡散臭いとか、怖いとか思わないのか? ほら、特にゼスはさ、こんな格好だし、外見も人並み外れてる」
 刀眞がからかう様に言っても、夕月は首を横に振る。
「いえ……お二人には何度も助けてもらってますし」
「あまり人を信用しすぎないほうがいい。行こうか」
「はい」
 落ち着いたと思ったが、刀眞とルカで夕月を送る間も、周りを気にしていて話らしい話は出来なかった。時折見るデュラスが気になるが、刀眞とルカが一緒に歩いている時は襲ってこない。
 夕月一人になると、彼に攻撃の術がないことがわかっているのか、襲ってくるのだ。
「さっきの狼とか、普通の人達には見えないものは何なんでしょうか?」
「あれは……デュラスと呼称されている悪魔で、強さによって様々な形を取る異界の者達。さっきのはニーダトレヒ……下級の悪魔で、俺達も倒すのには苦労しないんだが……これがミッドヴィルン、中級になってくると、人間を乗っ取るようになって、面倒なことになってくるんだ」
「ワルプルギスの夜も近い……」
 小さく、けれど厳かにルカが沈みかけている夕日を見上げて呟いた。
「ワルプルギスの夜……?」
「今度の土曜、一年に一回だけデュラスの力が増幅される夜がやってくる。夕月、この日の夜は絶対に外に出るな。デュラスは力のある者を襲って食らい、それを糧として強くなる。夕月は狙われてる。一人になっちゃだめだ」
「……はい。あの、僕にもデュラスを追い払うことは出来ないんでしょうか?」
 突然立ち止まった夕月が刀眞に問いかける。
「夕月には攻撃が出来る力が備わってない。その身体に眠るのはすべて守りの力なんだ」
「そうなんですか……」
 少しがっかりしている夕月に、刀眞は微笑む。
「そう、落ち込むことじゃない。力を使う時っていうのは、誰かを守る時だ。その守りに重点を置いた夕月の力は他の誰も持てない素晴らしい力なんだから、誇っていい」
 にっこりと微笑む刀眞の笑顔に癒された夕月だが、それでも不安は拭えないようだった。
「またね」
 朝陽院の門の前に来ても、夕月は浮かない顔をしていた。
「あの……やっぱり刀眞くんとゼスさんにはどこかで会ったような気が。その目の色……」
 ジッと刀眞の瞳を見つめ、夕月は切なげに言った。
「早く行った方がいい。それからさっき言ったこと、絶対守れよ」
「はい……」
 夕月は朝陽院へと帰って行った。

*****

「あ、刀眞くん。待ってたんだよ」
 お腹が空いたからどこかに寄って食べようと、朝陽院からしばらく歩くと、信号の前に十瑚と九十九がいた。
 二人は刀眞を待っていたようで、九十九の抱きつき攻撃が始まった。
「あー…はいはい、離すよ」
 刀眞に抱きついた九十九に痛い視線を向けてきたのは、ルカだ。
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