裏切りは僕の名前を知っている

□裏切りは僕の名前を知っている 第四話
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裏切りは僕の名前を知っている
第四話『生きた証を残して』

「宇筑くんじゃない……デュラス?」
 夕月は身体を起こしながら、攻撃をしたと思われる宇筑を見上げた。
「ご名答。オレの名はバユー。その辺のニーダトレヒと一緒にするなよ? 召喚でしか呼び出せない、ミッドヴィルンなんだぜ」
 一瞬で宇筑の姿が変化し、目がぎらついた人型の悪魔へと姿を変える。
「最近…宇筑くんの様子が変だったのは、あなたのせいだったんだ…!」
「ああ、この器のことか? オレは力を貸してやっただけだぜぇ? こいつ、あんたのこと殺してェ程、憎いみてェだったからさ」
 バユーと名乗ったデュラスはまた一瞬で、自分の姿を宇筑へと変えた。
「嘘だ……宇筑くんがそんなっ…」
「脅迫状まがいの手紙、受け取ったろーが! なーんかちまちま字切り抜いて、地味に作ってたぜ。そーゆう人間の禍々しい想念ってヤツは、オレたちの魔力を上げるんだよ。だからこいつに取り憑いた。ウヅキはおまえを殺せて、オレ様はレベルアップ。一石二鳥だろォ? んじゃま、レイガ様の命令を遂行すっか」
(レイガ?)
 夕月はデュラスが口にした名前が気になるが、バユーはナイフのようなものを五本出して、夕月を狙い定める。
「あんたがいるとさぁ、ツヴァイルトとやらに致命傷負わせらんねぇんだと。だから、死んでくれってよ!!」
 ナイフが投げられるが、夕月は痛む身体で避けることができず、痛みを覚悟するが、突然身体が浮いた。
「九十九くんっ!!」
「平気…?」
 ナイフから夕月を守ったのは、九十九だった。
「……間に合ったな」
 さらに刀眞も駆けつける。
「刀眞くん……」
(なんだか…目の色が前より濃いような……)
 夕月は横顔だけ見た刀眞の目の色が、月明かりのせいか爛々と輝いているように見えた。以前はそのような色ではなかったはずなのに、今日の刀眞の目の色はいつも以上に異様な色になっているように感じた。
「お前ら……ギオウのツヴァイルトだろ」
「それがどうした?」
 刀眞は自分の手に雷を宿らせ、少しずつ大きな力にしていく。
(ちょっと力出しただけで暴走しそうな感じがする……これを上手く抑えて解放したら戦えるか……?)
「刀眞……戦っちゃダメだ……」
 夕月の前に出たまま、九十九はネルを構えるが、姿勢を保っておれずに武器を手放し、頽れてしまった。
「九十九?」
 さらに九十九の前に出ている刀眞が背後の様子を窺うが、夕月が意識の薄れていく九十九を介抱し、左首元に異様な痣が広がっているのを目にする。
「これっ…!?」
「毒だよ、毒。全身にまわれば、死ぬぜ、そいつ」
 苦しむ九十九の呼吸が荒い。
「まずいな…………」
 バユーは宙に浮いて、止めをさすつもりでいるようだった。
 刀眞はバユーの攻撃に注意しながら、背後の様子を窺う。
(……どう考えたって俺が戦うしかない。多少暴走しても、守れればそれでいい)
「宇筑くん!! 目を覚まして…!! 君はこんなことできる人じゃない…!」
 夕月が必死に訴えるが、宇筑が正気を取り戻すことはない。
「夕月、下がってろよ」
 刀眞はさらに前に出て、徐々に力を解放していく。周りにバチッバチッと雷が走る。
 剣を召喚したバユーは刃に力を溜め始めた。
「ムダだなぁ。この人間は間もなくオレがすべて吸収する。言い残すことはそれだけかぁ? んーじゃ、今度こそ…最期だッ!!」
「雷撃……」
 自棄になって力を解放しようと、手をバユーに向けた瞬間、冷たい手が刀眞の腕を掴んだ。
 ドォーン――
 大きな力と力がぶつかり、辺りを煙が包みこむ。
「へッ、楽勝だぜ。あんな人間ごときに何を手間取ってたんだか」
 バユーが余裕の声を上げていると、突然煙が晴れ、攻撃を止めたルカが左手から腕にかけて僅かに傷を負い、立っていた。
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