Book2

□サヨナラ僕の世界
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「はぁ、は…」
ザッ、ザッ、ザ…

一人きりの世界。俺はただ、終点に向かって歩き続ける。…携帯で、車で迎えに来てもらえば、よかったかな…。

白い影はまだ廉を見る。あれとは深く関わった事はないが、意思というのをもっているのだろうか。
家族の中で、ああいうのを見るのは廉だけだった。幼い頃、それを言葉にして気味悪がられて友達をなくした事もある。
「………あ、つ…」
ザッ、ザッ、ザ…
炎天下の陽射しはどもまでも残酷だ。三橋は汗ビッショリになりながら。実家への田舎道をひたすら歩く。




どれぐらい、歩いていただろうか。





「…………」




道が、わからない。
おかしい、確かに自分は実家への道を歩いていたはずなのに。周りには相変わらず田んぼと畑が広がり民家も見えやしない。そろそろ目印になるバス停が見えるはずだ。…なのに、そんなもの、遠目で探しても見当たらない。

「は、…はぁ…あ、れ?」
―あつい、世界がグルグル廻る。今自分は真っ直ぐ歩いていけてるのだろうか、わからない。
まるで世界から見放された気がした。このままバス停が見つからなければ、永遠に自分はに迷子になってここら辺をぐるぐる歩いているだろう。そんな体力、三橋には残されてなかったが。
―視界に、白い影が、見える。見られている、遠くから。早く、早く行かなくちゃ。
はぁ、はぁ、はぁ。
ザッザッザッザッ!


俺は今、どこにいるんだろう。一生懸命、走ってても。道がわからないと、意味がないじゃないか。
視線を、背中に感じる。―複数の。

一人じゃ、ない。増えて、きてる。



「ふぁ、はぁっは、は…」
―関わっちゃ、駄目だ。三橋は必死に足を進める。目の前がぐらつく。引きずり込まれそうになる、足がもつれ、転んだ。
すぐに起き上がって、走ろうとするが、視界が揺らぐ。あぁ駄目だ。
そう思ったとき。







―急に、その視線に解放された。



「――――」
ザッザ、ザ…

ピタリ。三橋は、立ち止まる。…白い影は、いつの間にか、消えていた。
「…………」
何だった、んだろう。後ろを振り返ってみても。やっぱり、白い影はいなくて。

「………」
ホッとして、前を向こうとして、振り返る。

右側の田んぼの中央。黒い髪の、少年が立っていた。
「…………」
「…………」


驚いた、誰もいないと思っていたから。気配すら、感じなかった。
背は三橋よりも低く、中学生ぐらいだろうか?短めに切られた髪は真っ黒で黒光りしている。服はまつば色の仁平姿で、顔は狐のお面をしてて、わからなかった。
その少年は、黙って。三橋を見つめていた。強烈な、目線。
不思議と、嫌な感じはしない。

「…………」
「…………」
―このあたりに、民家なんかないはず、なのに…
脳の片隅で、ぼんやりと思った。
「…あ、の…三橋さん家、行きたいんです、けど…どっちか、わかります、か?」
「…………」
こんな田舎では住所を言うより、家の名前を言ったほうがわかりやすい。少年も、おそらく同じ村の出身だろう。なら、伝わるはずだ。
案の定、少年は腕を上げ道を真っ直ぐ指した。道は、間違っていないようだ。
「ありが、とう…君も、同じ村、なの?」
「…………」
「早く、帰りなよ?熱中症、なっちゃうから…じゃあ」

ザッザッザッ…
はぁ、はぁ。三橋はまた歩き出した。少年の目線を背中に感じて。

―名前は?
「っえ?」
ザッ。振り返る。少年が、三橋を見ていた。…名前を、聞かれた気がした。
「…三橋、廉…」
「………」
「………今、俺の…名前、きいた?」
「…………」

少年は、答えない。ただ変わらず、黙って三橋を見つめていた。


「………っ!!」
視界に黒い幕が下りてきたのは、急だった。バランス感覚を失い、倒れる。
―視界に、色とりどりな色彩の光が輝いた。倒れ込む瞬間、少年が手を伸ばすのが見えた気がした。
熱中症。三橋は意識を手放した。
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