Book、Ss

□遺されたのは、結末。
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―――。
ふと、阿部は呼ばれたほう見る。いつの間にだろう、一人の少年が、ベンチの横に立っていた。
「お、かえり。阿部、君」
「……………」
―誰ですか。そう言葉にしなかったのはこの少年をどこかで知っている気がしたからだ。じゃあ一体、どこで。阿部は目を細めてマジマジと少年を見る。
まるで陶器の様に白い肌とくせっ毛だろうか、フワフワとした薄い色素の髪はあきらかに日本人ではない。歳は同じぐらいだろうか、着ているのは白い着物で銀の刺繍が入っている、待てよ。俺、こいつどっかで。阿部が霞んだ記憶を読み直す、あぁそうだ。こいつ








「…廉?」
「…ふ、ひ」
「……廉じゃん。は、何してんのお前こんなとこで」
―――廉。あぁ、そうだ。三橋廉。阿部はやっと彼の名前を思い出す。そうだ、その着物姿間違いない。









彼は、阿部が出兵する前日。親戚付き合いの三橋家の人から自分へともらった人形だ。男子の俺が人形遊びをするわけもなく断ったのだが、是非俺にと言って強引に持たされた。今思うと、あれは死ぬかもしれない俺への憐れみを込めての花嫁人形だったのかもしれない。
あれ、お前何でこんなとこいんの。俺確か出兵ん時実家に置いてったよな、硝子戸ん中飾ってあぁそうだお前白無垢着てたんだ、頭の角隠しどうしたんだよあれ被ってたから俺お前の事女だと思ってたんだぞ。てか、あれ。何で人間になってんのお前。あぁ、何か。聞きたい事、いっぱいあるけど

「――とりあえず座れよ」
「あ、うん…ありが、と。お帰り、阿部君」
「ん、ただいま」
遠慮がちに隣へ座った廉と向かい合いそれからたわいのない話が始まる。母さんはどうしてんのシュンは?ここどこなの?全然見覚えねぇんだけど、あの街何であんな電気使ってんの、灯火管制はどうなってんの?阿部は質問責めで、それでも廉は穏やかな笑みを絶やさない。
「阿部君の、実家。埼玉に、移って、ね。シュン君、綺麗な、お嫁さんもらった、よ。お孫さん、いっぱいいる」
「へぇ、そりゃ良かった。結婚式行けなくて残念だったなぁ、埼玉かぁ。あそこ東京近ぇから爆弾すっげ降るだろ、大丈夫かよ」
「…………」
暗く俯いた廉をよそに阿部は街を見る。美しい光が暗い夜に輝いて、まるで外国の様だ。その光に阿部は目を細める。

「あ、のね。阿部、君…」
「ん?」
薄汚れた軍服を廉が掴んだ
「…せ、んそ、ね。…今、ね」
「…………」
「……おわ、たの。戦争」
「…え」
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