Book2
□サヨナラ僕の世界
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世界に見捨てられたのは
本当は僕じゃないかと思うんだ。
サヨナラ、僕の世界
ガタン、ゴトン…ガタンゴトン…
『次は〜××駅、××駅です…』
三橋廉は、電車の窓から外を眺めた。昼間の強い陽射しに輝く青々とした田のうねり。
お盆休み初日の今日、三橋は都会の三星学園の寮から実家に帰ってきた。家はこの駅を下りて、30分ほど歩いた所。三橋が向こうに行って、もう4ヶ月は経つ。
田舎の空気は、随分と澄んでる気がした。ガタン。電車が最後に大きく揺れて、止まる。プシュー、という音とともに、電車の扉が開いた。下りる人は、三橋一人きり。木造のホームを出てジャリ道を歩き出す。肩にかついだ旅行鞄が重い。
「……ぁ、つい…」
風邪のない炎天下を歩く。盆休みで田んぼや畑にはら一切人は見当たらない。蜃気楼で遠くがぼやけている。
『三橋って今年は実家に帰るらしいぜ』
『へー、出来たらそのまま来ねぇでほしいよな』
『休み明けの試合、どうせあいつ投げんだろ』
はぁ、はぁ、はぁ
『まぁ休みんときぐれぇ、あいつの顔見なくて済むな』
ぽたり、ぽたり。流れる汗が乾いたジャリ道へ染み込まれる。ジリジリと肌が焼かれてる気がした。
あまりの暑さに蝉すら鳴のをやめてしまってる今、三橋はまるで世界に一人きりになった様な気分だ。それが、心地好い。
「……………」
学校での三橋を取り巻く環境は良いものではなかった。クラスメートでも、部活でも。三橋に友達と呼べる人物はいない。中学の頃はあからさまにイジメられてたが高等部に上がった今、三橋は無視される事の方が多くなった。
自分から話しかける事はなかったが、試合の集合日時すらも教えてくれなくなった。まるっきり無視され、たまに私物が壊されたり試合用のユニフォームがびしょ濡れだったりとあっても。それを誰かに聞く事も出来ない。寮に帰っても、食堂で一緒に食べるのが、つらい。皆、今日あった出来事など思い思い笑いあって喋るのに、三橋はその中に入れなかった。一人自室に帰り、コンビニで買った弁当を食べる毎日。それがずっと続いていた。
三橋は、孤独な世界で生きていた。皆が共有する世界の隅にも入れない、まったく別の、一人きりの世界。三橋は、自分の世界で生きていた。
炎天下の陽射しに差され汗をぬぐう。はぁ、はぁ、はぁ。熱い。ふと、田んぼの向こう側を見る。
人影が、田んぼの真ん中。三橋を見ていた。真っ白な輪郭で、目や口なんかは見えやしない。
――――あ、まただ
三橋は視線を道へと戻す。
この時期になると、こことは違う住人がひょっこり戻ってくる。
三橋は普段、あまりそういうのを見ないが盆の真っ最中は昼間からでも見えた。
『地獄の釜も蓋をあく』
実家にいた頃、そんな話しを聞いた事がある。この時期、誰かしらの先祖が一斉に帰ってくる。悪い気はしないし不思議と怖くもないが、ただたまに呼ばれてる様に感じる時がある。
まるで今の自分は本当は死んでて、お前はこっちの住人だよ。と、言われてる気が、するのだ。