Book、Ss

□遺されたのは、結末。
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今でも忘れられないのはあの刺すようにギラついた硝子越しの太陽光だ。安っぽい軍服の下の肌が焼かれてるみてぇに痛くて握り締めた操縦桿を何度離そうと思ったかわからない、ただ燃料がなくなった事を知らせる赤いランプが俺を急かせる様に点滅している、早く。
早く俺に死ねと言っているのだ、この国は。頭を過ぎる恐怖を無視し、阿部隆也は下がる高度に任せ蝿の様に飛び交う敵飛行機の渦へ突っ込む。国民学校で学んだ大日本帝国万歳の叫びを上げなかったのは最後に自国の対しての反発のつもりだった。
唸りを上げて追突した阿部の飛行機は道連れの敵飛行機と共に青い海へと墜ちていく。8月15日。阿部15歳の夏だった。






『遺されたのは結末。』
「………」
ふと目を上げ、阿部は自分は死んでしまったんじゃないかと考えた。
きらびやかな世界。空は暗いのに、街の明かりはいつからこんなに強くなったのだろう。いつから建物はこんなに高くなったんだ。いつから地面はこんなに固い石みたいなので埋め尽くされた。行き通る人々は何故こんなにも薄着なのだろう、国民服はどうしたのだ。せめて、せめて防空頭巾はしないのか。
ギラギラした光から逃れる様に阿部は街から離れた所に行き着く。少し高台の公園のそこは静かで、人一人見当たらない。阿部はポツンと設置されているベンチに座る。
「……………」
今のは、幻か。なら下のほうで輝いているあの光は何なのだろう。あれは街だろうか、おかしい。自分は、故郷に帰ってきたはずだ、それなのに。何だここは、同じ日ノ本の国なのか。あんなに光って、爆撃でも受けたらどうするんだ。あれじゃ狙って下さいと言っているようなものじゃないか。ホントに俺がいた国なのか、これじゃまるで
………まる、で?



「阿部君」
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