Book、Ss

□罪は大人味、君は共犯者。
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三橋は思った。何で自分はあの時未来を信じてしまったんだろう。
阿部は思った。何故自分はあの時未来を恐れてしまったんだろう。




罪は大人味、君は共犯者。
「俺。阿部、く。好きで、す…」
「…………。は?」

前から、阿部の事は好きだった。勉強も野球も尊敬出来るし、バッテリーの自分は誰よりも彼を理解していると思っていた。きっとそれは事実で、だから彼は夜の帰り道二人きりの今。クラスの女の子から告白された事を自分に打ち明けてくれたのだとそう思っていた。本気でそう思っていたのだ。日常でも、もしかして阿部も自分が好きなんじゃないかと思わせる節はあった。些細な笑顔だったり、何気ない優先順位だったり。ふと触れた指先だったり。思わせぶりな態度は度々あった。だから三橋は言った。受けた告白に対し「断ろうかと思ってんだ。別に好きじゃねぇし」と言った阿部の言葉に便乗して。上手くいくとは思ってはいなかった。ただ、失敗するとも思っていなかった。
「…は。キモ」
「………」
阿部は笑った。三橋は阿部を見上げる。乾いた笑みは戸惑った表情を隠し切れていない。
「…………」
「…………」
「…先帰るわ。俺」
「…………」
スタスタスタ。阿部が自分を通り過ぎて、一人帰り道を急ぐ。その足音を聞くばかりで、三橋は振り返る事が。出来ない。
「…………」
早すぎた。三橋は思った。三橋は一人泣きながら夜道に迷った。阿部がその女子と付き合ったと聞いたのは次の日の朝練だった。
*************
「三橋、阿部とケンカでもしたか?」
「…して、ない。よ?」
「じゃあ何で阿部と何も喋んねぇの?一緒にも、帰ってねぇじゃん」
「ふひ。そいえ、ば。そ、だね」
「…そだねって、三橋」
「食堂、行こう。お腹、すいちゃった」
カタン。真昼の図書室、三橋は笑って話をはぐらかし立ち上がる。心配そうに自分を見る同じ野球部員の一人の手を笑顔で引いて歩き出した。
野球は続けていた。阿部とのバッテリーは変わらずグラウンドに立てば私情は忘れて阿部の指示を聞き自分も阿部に対して出来るだけ意志を伝える。グラウンドの上では。それ以外の場所じゃ二人はもう他人だ。阿部は明らかに、三橋を避けるし三橋は、そんな阿部の態度に沿うだけで何も言わなかった。変わったのはそれぐらいで、後はいつも通りの日常をすごしていた。
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