幻想世界

□忘れられた都
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この國のはるか遠くに今
美しい華を生ける
いつもより澄み渡った気流に
ひっそりと鎮まる都

あの都に行ってみないか
とまるで魔術に侵されたように
足が不思議と動いた
いつかその地に踏み出したい
と愛すべきオリンポスの土を
祝の詞と共に

汚れきった悪義の処で
魅惑の華を千切る
いつもよりこびりついた石段に
可笑しげな風景の都

あの都に行ってみないか
とまるで眸を閉ざされたように
哀しさと悦びの狭間に
いつかその地へ行きたい
と愛しさをオリンポスの蒼空へ
神を敬いながら

死に損なった
僕をどうかあの都へ
連れ去って欲しいから
そこで静かに睡りたいと思うのは
ならぬことですか

あの都に行ってみないか
といつか哀しさを叫ばぬように
愛しさと嫌悪感の間から
雲の上から翔び立つ

あの都へ行ってみないか
とまるで廻軸のように繰り返される
美しさと醜さの中から

死に至った
僕に遺されたのはただひとつ
あの都への道標
そこで静かに息絶えたいと思うのは
ならぬことですか

あの國にあるただひとつの都
腐敗したたくさんの屍
そこにある醜い生き霊と
ひっそりと死んでいる僕
あの都にひとつだけ或る白骨
それは生前の僕であり
それは悲劇を示す

あの都へ行ってみないか
と美しく光るは僕の節穴
あの都へ唯一行ったのは
この僕だけだから

あの都へ行ってみないか
腐敗した屍に集る蟲
あの都へ行ってみないか
そこへ入った者は決して
死んでも二度と出られぬ

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