けいおん

□いつでも、いつまでも
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例えばだけどその右手を掴んで引き寄せて思いっ切り抱きしめたら君は笑ってくれるだろうか?拒むこともせず、当たり前のように私の胸の中に居てくれるだろうか?最初は気付かぬフリをしてふざけあってその意味を知ろうとは思わなかった。抑えていたとか、逃げていたとか言われればそれまでだ。。すぐ目の前にいる私より小さい後輩は誰よりも可愛くて可憐、いつも私の心を掻き乱す。この可愛らしい後輩を早く我が物にしたい。そういった醜い感情が最近は抑えられずに、いつか泣かせてしまうんではないかとびくびくしていた。


「…律先輩方」
「……」
「律先輩!!!」
「え、あぁ」
「大丈夫ですか?」
「へ?」
「顔色が優れないです」


物思いにふけてたせえもあって反応が遅れてしまった。そういえば今日は朝から起きるのが辛かった。辛いのはいつものことだけど、今日はなんというか節々が痛いし、頭は重いし、休んでしまえばいいものの今週はライブを控えているため休むなんていう選択肢は最初からなかった。「大丈夫大丈夫」、いつもは素直に動く頬がなぜか動かない。必死に動かしやっとの笑顔を向ければ梓は眉を寄せた。

「律先輩、今日は帰りましょう」
「無理。もうすぐ皆来るし」
「それでやるつもりですか?」
「だから元気だって。心配性だなぁ、梓は〜」
「……本当に怒りますよ」

歪んだ顔は泣きそうで、私を睨んだ。こんなに心配してくれるのは先輩だから?それとも…妙な考えをするのは止めよう。自惚れして後々後悔するならそんな思考回路はシャットダウンだ。ゆっくり近付く梓をぼんやり見つめているとヒンヤリと冷たい手が私の額に添えられた。あぁ、冷たくて気持ちいい。

「熱、あります」
「ないってば」
「じゃぁー計ってみますか?」

本当に保健室から持ってきますよ?律先輩。そう言った梓の顔ときたらめちゃくちゃ怖かった。可愛い顔が台なしだ。梓は真面目で、有言実行する人物だ。本当にやりかねない。「律先輩」私を咎めるように名前を呼んだ。あぁ、煩い。煩い。「律先輩」もう一回名前を呼んだ梓に我慢が出来ずに腕を握って今出せる最大限の力で引き寄せた。そんな声で名前を呼んで欲しいわけじゃない。黙れよ、黙れ黙れ。梓は思ってもいない力に体勢は崩され、素直に私の胸の中におさまった。「り、りつ…せんぱい?」梓はそのまま上を見上げ驚いたように大きなな瞳が余計大きくなって私を見た。そのまま、額と額をくっつけてゆっくり梓の唇を奪う。にげれないように梓の後頭部に手を持って行き、逆の腕を腰に巻き付けた。ゆっくり唇を割って舌を遠慮がち入れようとすれば次は拒むことなく容易に入れることが出来た。逃げる舌を巻き込み口内を荒らせば、クチュッと音が響いた。ギュッと目をつむった顔とくぐもった、甘い吐息が耳を支配した。先程聞こえていた生徒の声も、何もかも耳に入らない。全てが梓に向けられ、髪の毛から爪先まで全身を駆け巡るこの甘い刺激にただ身を任せた。

ゆっくりと離された唇からお互いを繋ぐ銀の一線。赤く彩る頬と力ない瞳、少し荒い吐息に高揚したこの気持ちを抑えられなくて、頬に手を置いて指先で撫で、下降する指は顎を捉えた。それが合図。またゆっくり梓に顔を近付けば今度は梓からゆっくり顔を近付けてきた。先程より激しく絡ませた。これで梓を縛り付けられるならばと、そう思えば思うほど愛しさは膨らみブレーキを見失ったバイクのように暴走を止められない。

「り、つ―― ふっ、せんぱい」

―――ドックン。心臓は一回波を打つ。苦しい。苦しい。苦しい。愛しい。どうすればいい?おさまれ。ギュッと心臓を鷲掴みされたような苦しい感覚だ。ゆっくり双眸を上げれば顔を紅潮させ必死に私の口づけに答える梓がいた。両手は私のワイシャツをギュッと掴みその快感に堪えるように眉を八の字にさせている。名残惜しそうにもう一度離せばすぐに目尻から流れる涙を真っ赤な舌で舐めとった。


「り、つ…せ、ぱい。――― なんでっ?」
「梓、」


――― 好きだ、

伝えるつもりのなかった言葉が自然に出てしまった。まぁ、こんなことしといて伝えないとか、それこそ最低になるけど。


――…梓が好きだ、抑えられないぐらいに


キョトンとしている梓にもう一度目を見て愛の言葉を呟いた。拒絶反応は見せないでくれ、お願いだから。黙り込む梓の次の反応が怖くて俯く。あぁ、だらし無い。真っ直ぐ梓を見ろ、田井中律。

「律先輩」

沈黙を破り耳に響いたのは梓の優しい声だった。それに俯いていた顔を再度上げて梓を見れば、満面の笑みで泣く梓が私を見ていた。
「あず、」
「好きです」
「へ?」
「大好きです」

こんな梓の顔は見たことない。こんなに喜んでる梓も、こんな泣いている梓も、私に向けて"好きだ"と言った梓もどれも始めてで
、そんな梓を見れて嬉しくて嬉しくて気付けば頬を伝う温もりが顎から下に落下していた。

「律先輩、泣かないで下さいよ」
「うるせー、梓だって酷い顔してるぞ」
「それは律先輩が悪いんじゃないですか」
「はいはい、すいませんでした」
「それに、順序バラバラじゃないですか!普通告白が先ですよ」
「いやーなんか梓があまりにも可愛くて」
「なっ…」


またも紅潮する顔。見事に顔一杯に真っ赤。この可愛い生き物をどうしようか。とりあえず皆が来るまで離してやらないけども。恥ずかしがる梓をそっと腕の中に閉じ込めて強く抱きしめた。









カナリアは泣いた






(先輩熱っ!!)
(梓は渡さん)
(話し違いますよ)
(まぁまぁ、いいじゃん)










    2010.6.14:いつでも、いつまでも








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