けいおん

□ダイレクトメッセージ
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ダイレクトメッセージ










心の中で呪文を唱えてみた。さん、にい、いち、口に出していないのに震えてるように思えてしまう。もう何回目だろう、この呪文は別に誰かが教えたとかそんな軽いもんじゃない、小さい時の記憶を辿った。 思い出せない彼女は確かに大切な人だったのに、そんなこと言ったらきりがないけど悲しくて、虚しくて、情けなかった。


彼女を見たのは去年の春。まだ入学したてだと言うのに彼女の周りにはたくさん人が居た。単純にすごいと思った、それと同時に感じた違和感。今思えばあれから私は彼女をずっと見ていたんだと思う。たまに見せる無表情、それがなんともいえず背中はゾッとした。怖い、怖い。底知れぬ何がが隠されたようなそんな表情、かと思うと太陽のように笑い、その大雑把な性格と男気溢れる強さと根性。クラスのムードメーカ。そんな彼女が私はよくわからなかった。



「澪ちゃん、」
「ん?どうしたの、唯」
「りっちゃんってドラマーらしいよ」
「へ?本当!?」
「うん、りっちゃんと中学一緒の子が居て、聞いたんだ」


唯には悪いがうれしそうに話す次の言葉達は全く聞こえなかった。そういえば、私は昔から内気な子だった。今だってそうだ、友達と言う友達なんて数人。昔からこんな感じ。言い訳させてもらえば私は狭く深くがいい。でもやっぱり臆病で怖がりで恥ずかしがり屋で、そんな根本的な性格は変わっていない。なのに、身体は勝手に動いていた。いきなり立った私を唯は驚き不思議そう見上げている。そりゃそうだ、実際自分でも何してんだと思う。馬鹿、私!!進むな、何してんだ。そう思ってるのは本の小さな私。今実際私の心は躍り狂ってる。もう止まらない。そういえばこんなこと前にもあったようなー……。なんて考えてたらもう彼女は目の前。自然と口は彼女の名前を呼んでいた。






「田井中さん…?」







もう声は震えてない










   2010.0621:ダイレクトメッセージ











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