けいおん

□限界ロックンローラ
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気分は沈みきっていた、それでいて何処か私は高揚し続ける気持ちを理解できなかった。そんな矛盾と蟠りに頭に霧がかかったようにぼんやりしている。それを忘れようとして授業が終わるなり音楽室に直行。そんな最初の目的なんて今の私にはどうでも良かった。ムカつく、ムカつく。忘れろ、私の中から消えろ、叩く度に叫びそうになった言葉は次第に頭にさえ浮かぶことはなくなった。無我夢中にドラムスティックを降り続け叩く。一瞬もその動作を止めることなく、イヤホンから聞こえるアップテンポな曲、ベースリズムに合わせて一心不乱。曲事態二分程度、なのに曲の速さが原因か終わった時には汗が滴り落ち、腕は重く怠かった。乱れる息を落ち着かせた、その場で目線を下に向ければ、スルッと黄色いカチューシャが落ちてフロアにカランっと転がった。それさえも拾うのが怠かった私はそのままにゆっくり目を閉じた。



「終わった?」



いきなり音楽室に響いた声と人物に一瞬心臓は持ってかれた。ああー、もう駄目だ。もう無理。堪えたものは全て無意味。なんせ音楽室のドアの方を見ればベースをしょった澪がこっちを見ていたからだ。―― どうした?近付きながら尋ねた澪に私は声が出なかった。もう息は整ったのに。何も言わない私は怠い身体を引きずるようにソファーにもたれかかった。澪は心配そうに名前を呼び、後ろから私を追って隣に腰を下ろした。
「律?」
「……」
「―…… ねぇ?本当にどうした?」
「…はぁっ、本当お前馬鹿」
「り、つ―…え、」


澪の腕を引っ張って白くて華奢な身体を引き寄せた。そのまま私は強引に唇を奪った。澪はというとその事態に頭がついていかないようで唇が離れた後も唖然としていた。やっとのことで事を飲み込めたのか、瞬間にボッとでも音が付きそうなくらい真っ赤な澪の出来上がり。そんな澪にお構いなしに澪の頭を自分の胸に押し付けて抱きしめた。

「律!!」

胸を掌で押されて消えていく温もりに私は顔をしかめた。離すものか、もう無理なんだ、なんでここに来たんだ。今日は部活だって休みだ。ちゃんと私は澪に先に帰るように言ったのに。本当に澪は間が悪い。

「澪、」

汗で濡れた前髪を後ろに掻き分けながら少し低く名前を呼べば掌の力は一瞬で抜けた。それを逃すまいと、顎を掴んでくちづける。


「お前が、悪いんだ」
「な、に……いっ、て」
「……澪が好きなんだ」


お前それを笑うか?拒むか?気持ち悪いと思うか?そんなどす黒い感情は言葉に出ていた。自嘲はやがて私を蝕む。その後の沈黙で私はしてしまった事の重大さを理解して罪悪感ばかり募った。――― ねぇ、俯く私の頭上から優しい澪の声が聞こえたと思えば目の前に澪の身体。ゆっくり、優しく、そして強く頭を抱きしめられた。


「律、私も律のこと好き、大好き。



だから、―― 泣かないで?」




澪の言葉で自分が泣いてること気付いた。
そのまま視界は交わって、目尻に溜まった涙を舐めとられ瞼にそっと澪の唇が当たる。


「律、ごめんね。辛い思いさせて」

なんで、謝るんだ。馬鹿澪。私が悪いのに、強引にこんなことして自分の欲望を澪に押し付けようとして、なのに澪はそんな私を受け入れてくれて。本当馬鹿。馬鹿過ぎる。でも、その涙も、私を包むこの腕も、笑顔も、前から私だけのものだったとか、「好き」と言った澪が私と同じ辛い思いをしてたんだとか、そんな風に自惚してもいいだろうか?






限界ロックンローラ











      2010.0622:限界ロックンローラ












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