けいおん

□おまえかわいいな
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皆の輪に一歩後方にいる後輩に振り返って相槌を求めれば、それは本人にとってきっと予想に反していたらしい、梓は―― へ?っと一瞬、呆気に取られて、すぐに慌てて答えた。

「わ、わたしはいいと思います」

一年は長いようで短い、だっていつの間にか私達と梓が会ってから一年たっているのだ。この小さな背中の後輩はいつもそうだ。今ではこうして皆でいることに何も疑問は感じないし、居て当たり前だし。梓との会話だって弾むようになったし、冗談だって言える仲だと思う。でもやっぱり1ミリ、いや0.1ミリの何か見えない壁はあるようだ。"後輩"と"先輩"、私はたった一年違うだけだと思っている、でもやっぱり私にも一つ上に尊敬する先輩はいるもんで、そうは言っても梓の気持ちもわからわけじゃない。ただ、ねー。やっぱうちらの間にある壁をぶっこわしたいこの歯痒い感じは私にはあった。まぁ、それを消してくれてるのは多分唯なんだろうけども。

「あーずさ」
「うわ、律先輩っ」

なんか悔しい、唯に出来て私に出来ない。もっと梓の笑顔だって見たいし、喜ぶ顔だって見たい。私は梓の背後に移動して後ろから抱きしめた。そのまま顎を梓の頭に置いて、何もなかったようにまた皆と話す。

「でさー、どうするよ?」
「んー、どうする?」
「これはー?」
「あら良いわね」

梓の背中を少し押して皆が集まる机のど真ん中に押し込めた。身長小さいなら前に行きなさいよ、あんた。私もだけど。机に置いたある一冊のの本の見開きには大きく"旅行"と書かれたものだった。


「梓は何処行きたいよ?」
「そうだよ、あずにゃん」
「わ、わたしですか?」
「梓の意見も聞きたいな」
「あ、澪ちゃん乗り気になったわ」「う…、」

真っ赤に慌てる澪をおちょくりつつ、斜め上から顔を覗き込んだ、―― 梓ー、何処行きたいんだ?

みんな一斉に梓に視線をよこす中、梓は少し頬を赤らめて恥ずかしそうに呟いた。

「…私は、先輩達と一緒なら何処でもいいです」

もう後半の方は聞き取れないほどで、唯はというと何やらめちゃくちゃに叫んでいるし、梓も梓で俯いてしまった。可愛すぎる、なんだこいつは。抱きしめる腕に力を入れて、また頭に顎を置いて目を細めた。


「梓、それ私もだ」


そう返せば、見上げる目と目が合い、梓は可愛らしくくしゃっと笑った。



あー、もう本当










おまえかわいいな





(真っ赤ー)
(み、澪先輩ー、)
(あずにゃん可愛い)
(梓ー、)








2010.0623:おまえかわいいな









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