けいおん

□甘い旅路はいかが
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さてさて、なんでこうなってるんですか?今にも口から飛び出そうな心臓をどうにかして欲しい。

「今日ってライブハウス、行くんですよね?」
「うん、そう」

ハチ公のすぐ隣にしゃがみ込む律先輩は焦る様子もなく淡々と言ってのけた。軽音部でのライブハウス見学は何処に行ったんだ?なんで今私は、先輩と二人きりなんだ?そんな疑問は後を絶たなかった。でも少し嬉しいのは事実でなんとか悟られないように話題を正論な方に持っていく。「うん、そう」って……律先輩。、ツッコミどころは沢山あるけどもここは冷静かつ沈着に物事を進めなければ真っ先に律先輩ペースにもってかれて、せっかくの私の普段通りの装いが失敗に終わる。

「じゃ、なんで二人なんですか?」
「澪が講義、ムギは風邪で唯は……寝てるんじゃん?」

前者の二人はさておき、唯先輩は何をしてるんですか!!なんて大きな声で叫んでも今は律先輩しかいないわけでなんか虚しい。はぁ、っとため息をついた私に律先輩は重い腰を上げて意味ありげに笑みを浮かべた。

「やってくれたな」
「へ?」
「いや、こっちの話し」

ま、とりあえずデートしよっか。そう呟いた律先輩は笑顔で私の手を握り私の制止も聞かずにズカズカ歩いてしまう。私はというとそれに着いて行くことしか出来なかった。ふたり並んで歩く道、繋がってる手と手の温もりがくすぐったくて、気付いたら笑ってたなんで、私はなんて単純なんだろう。
「ちょ、律先輩ー」
「いいじゃん、遊ぼうぜー」
「ライブハウスはどうするんですか?」
「そんなチケット貰ってないよ」
「………へ?」


だから、貰ってないんだって。梓、今日は私とデートな。振り返った律先輩は目を細めて微笑んだ。掴んでいた手を一旦といて、今度は指を絡ませて軽く手を握られた。

「梓ムスッとしてると可愛くないよー」

一瞬でもドキッとした私のときめきを返してほしい。「余計なお世話です」多分ムスッとしていた表情は余計ムスッとしているに違いない。おまけに眉間にシワを寄せてる始末だと思う。でも実際なんてことはない、全く怒ってもいなければ不機嫌になったわけでもない。ただの隠し事、それだけだ。

「ほら、これやるからさ」

機嫌直せって、そう言いながら渡されたのはオレンジジュース。まだ買ったばかりなんだと思う、なんたってこんな炎天下なのにまだ缶も中の液体も冷たかった。

「梓もエネルギー補充したろ?行くぞー」

なんか丸め込まれた気もしないではないがここまで来といて何もせず帰るのもなんか気がひける、それに律先輩と遊べることがやっぱり嬉しい。「梓あれ食べよう」引っ張られるように着いて行けば目の前にはピンクと白、ガラス張りで出来たなんとも可愛らしい一軒の店だった。ここのアイス美味しいんだぜ、そう言いながら店の中に入って行く律先輩に私は後ろから着いて言った。ガラス張りのケースには何種類ものカラフルなアイスクリームが置いてあり、それを私はボーッと見つめていた。

「梓は何がいいんだ?」
「へ、…えーと、これとこれで今迷ってます」

そっか、そっか。なんて私の頭をぐしゃぐしゃっ撫でる。あー、せっかくセットした髪の毛が、律先輩はガラスケースの中のアイスを指を指して店員に注文していた。じゃー、これとこれ。あとこれのダブルで。お会計は一緒でいいです。流れについて行けない私を尽く措いていってしまう。そんな私を察してか、私の奢りだ。なんてまた頭を撫でられた。

「ちょ、律先輩。それはダメです」
「いいんだよ、私が決めたの」
「ダメですよー」
「いいの、ってか梓髪の毛ボサボサ」
「誰のせいだと思ってるんですかぁあー。」
「アハハハ」

爆笑する律先輩はさて置き、私は鞄の中からお財布をだそうとした。すると横から伸びてきたその手に掴まれて私の身体に押し付けるように自分の身体を近付けた。急なことに驚く私を余所にもっと密接させてくる。というか、顔が近い。少し見上げれば鼻と鼻がくっつきそうな位置にある顔に心臓はその刺激に撫でられた。あ、ヤバい。どうしようもない心臓は加速するばかりで死んでしまうほど切ない。

「梓、私の言うこと聞けない?」

鼻先と鼻先が当たりそうな位置にあった顔が今では私の耳の傍にあった。律先輩の囁きと僅かに届く吐息に私はもうパニックに陥っていた。気付けば勝手なことに私の口は動いていた。

「聞けなく、ないです…」

そう言えばスッと顔は遠ざかり
「よし、偉いぞ梓」なんて褒められてしまうもんだから何故か嬉しくてたまらない。

「ほらあーん」
「な、そんぐらい自分で食べれますよー」
「いいの、はいあーん」

あーん、だよ。早く梓、何照れてんの?なんて言われたらたまらない、そこは意地っ張りな性格上その挑発に私は乗ってしまった。パクッと一口、チョコレートの甘さと硬いクッキーの感触に幸せな気分に浸った。しかも律先輩が食べさせてくれたのだ、幸せで当たり前。なんて頭に浮かんでいた私は我に返る、今私なんと?自分の行動と思考に自分で首を絞める始末。目の前の律先輩はもう上機嫌で次のアイスを私に向けて待っている。悔しい、律先輩だけ。

「律先輩も私のアイス食べたいですか?」
「ん、後で貰うよ」

それよりはい、あーん。今度は素直にパクッと食べた。そこで終わりにするはずがない。そのまま引っ込めようとする腕を掴んで引っ張った。案の定いきなりの力に律先輩は不意を疲れてバランスん崩し私の方に倒れかかる。素早く私は顔を近付けて律先輩の唇に自分の唇を重ねた。逃げれないように後頭部を押さえつけて舌を捩込む。それと一緒にチョコレートアイスを舌に絡めて律先輩の口内に入れて唇を離した。

「ごちそうさまです」

俯いてしまった律先輩は耳まで真っ赤。ヤバい、可愛すぎる。こんな律先輩は初めてだ。もっと攻めたい気持ちがジワジワ出てきて、私は律先輩のアイスを律先輩に差し出した。

「あーん」
「…っ、あず、さ。ずるい」
「ずるいのは律先輩ですよ」


してやった。私は満足げに目の前の真っ赤な先輩を見上げた。ここが道路の真ん中だと思い出して、あー、私もなんかやらかしたかもなんて思ってもないけど今ならなんでも出来る気がする。

「ごめん、もう無理だ」
「へ、」

いきなりの突拍子のない言葉が聴こえたと思えばすぐ隣にあった細い路地裏に連れて行かれ背後には壁、私の顔の隣には律先輩の手、カランッと落ちたアイス。自然と近寄る先輩の顔、私はゆっくり双眸を閉じた。














甘い旅路はいかが









「先輩……ずるい、です よ」
「お互い様だろ?」
「アイス……」
「またいくらでも買ってやるよ」



だから、今だけこっちに集中して








20100626








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