けいおん

□救済してよピーター・パン
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ぼんやり。春の陽射し
水面は波も立たずに沈
むのみ。      














夏だなぁ。うっすらと額に滲む汗
を腕で拭いながら下校する生徒の
後ろ姿を見つめた。そういえば段
々と日が落ちるのも遅くなってい
る気がする。空を見上げれば白い
雲がふわふわと浮かんでいる。こ
んな時思うのはあれがわたあめだ
ったらいいなぁとか、あれに乗れ
たら何処までも遠くに行けるのか
なぁとかそんなメルヘンチックな
思考ばかりだ。唯とかムギはそう
いうのが好きなのか私と共感出来
る面が多々あった。が、"律"とは
あまり合わないようで良く「メル
ヘンすぎる」なんて言われる。―
―…律、か。あの日を境に私は律
のことを"律"と呼べるようになっ
たけど、まだ歯痒い何かが存在す
る。             

「あら澪ちゃん、早いわね」


後ろから聞こえた声とドアが開く
音に私はゆっくり後ろを振り向い
て笑った。「今日ホームルームが
終わる早かったんだ」、そう言っ
て時計を見れば私がここに来てか
らもう既に20分は立っていた。
ムギは直ぐに荷物を置いて可愛ら
しいバックからお湯とお菓子を出
し机に置いた。        


「今お茶入れるね、紅茶でいい?」
「あ、うん。ありがと」    

慣れた手つきで紅茶を作り、ティ
ーパックがまだお湯に浸透してい
ない内にお皿にお菓子を盛り付け
し始めた。こういう時の紅茶を注
ぐ手の置き方とか、お菓子を盛り
つける時に素手でやらない当たり
とかお嬢様の気品が感じられると
思う。あら、と零れたムギの声に
視点をそちらに向けた。「りっち
ゃんの、かしら?」、机の上に置
かれてあったのは律の大事なドラ
ムスティック。        

「忘れたんじゃないか」
「あらら、朝練の時ね」

そうみたい、本当に大事な物を忘
れるなんて、苦笑を浮かべて一口
お菓子をかじった。      

「唯と律は?」        
「うーん、唯ちゃんは先生に呼ば
れてたと思うけど、りっちゃんは
わからないわ」        
「そうかー」         

なら全員が集まるまでまだ暫く時
間がかかるに違いない。ムギが作
ってくれた紅茶を口に運ぶ。甘く
て少し酸味の聞いた液体が口に溶
けていく。美味しい、ポロッと出
た言葉に深く意味はないけども目
の前にいる彼女はかも自分のこと
のように嬉しがっている。「澪ち
ゃんのお口にあって良かった」そ
れ少し癖があって皆飲みずらいっ
て言うの。          

「私はこれ好きだよ」     
「本当?うれしいわ、ありがと」

私は肘を付きながらじっと机の上
にあるドラムスティックを見つめ
た。あんな細い腕であんな力強い
ドラムができるなんて。本当に世
は末だ。頭に流れるリズムにトン
、トンと机を人差し指で軽く叩い
た。その時ねぇ、と目の前の彼女
に呼ばれリズムは中断。ん?と彼
女に視線を合わせる。次の彼女の
言葉に私は思考が遮断。。   



「澪ちゃんはりっちゃんのこと好
きなのね」          


黙り込んだ私にムギは深い笑みを
向けるだけ。         


「ま、まあ、好きだけど?」  
「違うわ、」         

何が違うのというか。律のことは
好きだよ?当たり前ではないか。
友達だもん。なぜムギは違うと言
ったのだろうか。彼女の意図が全
く読めなかった私は深く追求しよ
うと思ったけど、何故かそれは喉
の手前で空気に変わってしまう。
言葉が出なかった。この沈黙が異
様に痛かった。沈黙を破るように
慌ただしくドタバタと階段を上る
音と律と唯がじゃれついてる声が
聞こえたと思えば壊れんばかりド
ンッと開かれた。それにさえ私は
何も動くことは出来ずにいた、け
どもムギは何もなかったように先
程と違いヘラッと笑いかけ「もう
、壊れちゃうわよ」なんて冗談を
言っている。         

「おー、りっちゃん隊員。お菓子
がありますぞ」        
「おー、唯隊員。これは私達に課
せられた義務である。」    


「「食べましょう」」


私の隣にぴょんぴょん跳ねるよう
に唯が座り、向かい側に律が座っ
た。ふと律と視線が交わる。途端
に私の心臓はざわついた。なんだ
と言うのだ。先程のムギの言葉が
気になって律を直視出来ない。プ
イッと私は勢い良く顔を横にずら
してしまい、しまったと内心この
後の対処を考えていた。    

「ん?澪どーした?」     
「りっちゃんが大事なドラムステ
ィック置いて行くからよ」   
「へ?」           


あ、本当だ。やっべぇ。そう言い
ながら机の端にあるドラムスティ
ックに手を伸ばした。     

「本当だよ、律。ダメだろ」  
「ごめん、ごめん」      

怒んないでよー。な?     
舌をちらっと出しながら謝る律を
見て、ホッとする。ムギがフォロ
ーしてくれなかったら私がおかし
いのがばれていたところだ。四人
の会話はどんどん進む、が事実三
人の会話とでも言った方が正しい
。私の頭の中で根を張った言葉は
ぐるぐると回っている。そんなは
ずない。そうだ。ありえない。そ
う思っても思考を止めようとして
も出てくるそれは確かな蟠り。 
それが何かなんてわからぬまま私
のその考えは沼にのめり込んでい
った。            







救済してよ  
ピーター・パン







なんでこんな苦しいの?









20100710






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