けいおん

□思うままの脆さ
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昔の記憶がフッと蘇った。何時だ
ったか、まだ小学生の頃に律が傷
だらけで帰ってきた日があったっ
け?思い出したそれを頭の片隅に
置いて目の前の傷だらけの人物の
おでこにそっと絆創膏を貼った。
いてっ、そっと貼ったつもりだっ
たのだけど咄嗟の反応は痛さを表
していて私は小さく掠れる声で一
言、――…ゴメン。と謝った。 


「なんで喧嘩したんだ?」   

先程からその質問を何度か聞いて
いるものの律は一向に口を割るこ
となく沈黙のみ。一言言うなれば
転んだなどとバレバレな嘘を言う
し、この目で私は見たんだぞ、喧
嘩している所を。そんなことを言
えばまた沈黙。終いには頬を膨ら
めてしゅんっとうなだれてしまう
始末。こうなれば律は私以上の強
がりと頑固を発揮するものだから
困ってしまう。        

「黙ったままじゃわからないだろ
?」             

男の子と喧嘩なんて無謀過ぎるで
はないか。もう小学生ではないん
だ。体格差とか力の差とか、そう
いったものがあるのだ。案の定ず
たぼろで帰ってくるし…。   

「律…お願い言って、」    

「澪は考えなくて言いんだよ」 


優しいな、律は…。言ってしまえ
ばいいのに。何も話さないのは。
私が傷付くと思って言わないんだ
。全部溜め込んでしまうのを知っ
ていて私は今までに律に甘えてき
たんだと思うと自分自身にどうし
ようもない怒りを覚えた。   


「ごめん、律。」       
「……なんで澪が謝るんだよ」 

不機嫌そうにでも少し泣きそうな
表情をしながら納得いかない顔し
ている律に再度謝れば、怒った口
調で呟いた。         

「澪は悪くない。澪は何もしてな
い!!」            

鋭い言葉に私の口は容易に閉ざさ
れた。あぁ、そういうことか。な
んで今更気付いたんだろうか。昔
も今も律は律で、何一つ変わって
いないんだと実感して笑みが零れ
た。それと同時に私の扱いも多少
昔の延長がまだあるようだ。それ
はそれで悲しいのだけども、今は
昔程そういった理不尽な行為は受
けなくなった。何より今は友達も
沢山いるわけで、そして昔と変わ
らずに今も私の傍には律がいるん
だ。そうだ、何時だって律は私を
守ってくれているんだ。私の知ら
ない所で傷を作るも、私が傷付か
ないように嘘を付いていた昔の律
は今の律。そんなことを思ってし
まったら最後だ。私の目からボロ
ボロ透明な液体が頬を伝っている
。それは嬉しいけども、逆にその
倍私は悲しかった。私のせいで律
が怪我をしたら傷付いたり。なん
で律が傷付かなければならないん
だ…。            

私の涙を見た律は目を見開きギョ
ッとしていた。        


「律、ありがと…っありが、と。
も、っと…強くなるから…、」 

澪、泣かないで。焦ったように律
はそう言った。律はまた泣き虫な
私には無理な注文をするな。でも
頑張るから、今だけは泣かしてく
ださい。頭を優しい手が撫でる。
そのまま、引き寄せられて抱きし
められた。ごめん、本当に…。 
今度は私が守れるように、そう願
いながら傷だらけの彼女をギュッ
と抱きしめた。        








思うままの脆さ







20100715







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