けいおん

□限りあるものだと知っていた
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「さわちゃん」        



こんなところに居たの?耳に溶け
込む言葉に長い雲を見送りゆっく
りと振り返る。満面の笑みを浮か
べ軽い足で隣に立ち、手摺りに腕
をかけた。          
「どうしたの?りっちゃん」  
「んー?」          
「今貴重な休み時間でしょ?お昼
ご飯は?」          
「授業中食べたー」      
「あら、そう」        
「その反応おかしくない?」  

ははは、とはにかむ彼女はしゃが
み込んで目線を上げた。手を下に
トンッと置く仕草を合図に私も腰
を下ろす。あー、服が汚れちゃう
じゃない。そんな不服そうな言葉
さえも彼女は全て飲み込み「いい
じゃん」と笑い飛ばす。そんな純
粋で無邪気で適当さが今は落ち着
いた。            
「さわちゃん、これあげる」  
「あら、カフェオレ?いいの?」
「いいよ、いいよ」      
「ありがとね、やけに優しいわね
。どうしたの?」       
「いやー……ほら、なんか落ち込
んでんじゃないかなぁーって思っ
てさ」            

なんか今日元気ないし、ずっとぼ
ーっとしてるからさ。なんかあっ
たのかと思った。目線を下降させ
たまま呟いたそれは確信には程遠
いようなそんな違和感が残る。口
を開こうか迷って言葉を考えるが
、一向どういったらいいのかもわ
からなくて結局は意地だけの言い
訳にしかならなかった。    


「そんなこと、ないわよ」   


思った以上に乾いた声が出て驚い
た。何を緊張しているのかわから
ないけども確かに心音は増すばか
りだ。真っ直ぐに茶色い瞳が私の
瞳を射貫く。蛇に睨まれた蛙のよ
うにその瞳から反らすことが出来
なかった。          

「そう、ならいいけど」    
「馬鹿ねーっ。また振られたと思
ったの?」          
「うん。」          
「あら心外だわ」       

離された瞳にホッとしつつ段々と
いつもの調子を取り戻し軽快なト
ークでごまかした。ばれては駄目
なのだ。得に目の前のこの子には
。内心に秘めたこの想いなど拭い
去ってしまえばいいのにとどんな
に思っただろう。見る度に、名前
を呼ばれる度に心臓は素直に速く
なるばかりだ。        

「ありがとね」        
「へ?」           
「心配してくれたんでしょ?」 
「…まぁね」         
「照れてるの?」       
「て、てれてなんかっ…」   
「ふふふ」          

ただ単に残ったのはどうしようも
ない嬉しさだった。こんな関係で
もいいのだと感じてしまう一瞬さ
えあればそれで、そう有りたいと
思うのだ。          















限りあるものだっと知っていた












20100803












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