けいおん

□甘えたがりの裏側
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なんとなく落ち込んできたときに決まっていつも律に連絡していた。例え夜更けでも眠そうな声で名前を呼んでくれる。何も言わない私はどうしようか考えた。理由がない。「澪、どうした?」急かされた声に焦り、あたふたしていて急に出た一言がこれ。「――… んー、明日ちょっと早く行かないか?」なんなんだ、行ってどうするんだ。馬鹿か私は。

「別に良いけど、なんで?」
「いや、なんとなく」

それしか言えないではないか。一瞬間を置く。その間に深呼吸。私もそれから話さない。律も話さない。無言の会話は少しばかり長かったようだ。痺れを切らして律が電話越しにくすくすと笑い出した。なんだよ、見透かされているようで腑に落ちない。自分がそういう理由で律に電話しているせいか段々と羞恥心がジワジワ出て来てしまった。恥ずかしいだろ、馬鹿。ふと電話の向こう側で車が走る音が聞こえて不思議になる。

「律、今外なのか?」
「ん、外」
「そう、なんだ」

我が儘は言えない。今から来てなど。それに明日は朝早いし。あーだこーだ葛藤する中、窓の外から密かに声が聞こえた。嘘?そう思うも嬉しさを隠せずカーテンを開ければラフな格好をした律が家の前で携帯電話を掲げながら笑顔で立っていた。

「澪ー、一緒にケーキ食べるか?」

第一声がそれか。心中でツッコムもそれより来てくれたという事実が嬉しくてしかたないのだ。「食べる」そう私は告げた。律が嬉しそうに玄関の扉を開き、「お邪魔しまーす」と呑気な声で上がりこんだ。直ぐに聞こえる階段を上る音に私は嬉しすぎてスタンバイ。扉が開いた瞬間に勢いよく律に飛び掛かった。

「うわ、」
「律、ありがと」

「ケーキが危ないだろ」多分照れ隠しだろう。つんけんとそう言うので、あえてそれは思ってるだけで口には出さないけれど。律の空いてる手を握り締めベッド前まで移動。その間に律はケーキを机の上に置いてベッドに座った。私は立ちっぱで律を見下ろし、微笑んだ。私は少し、自惚れてしまう。言ったら、照れるかな?むしろ言った瞬間私が照れてしまうけど、律も同じ反応をしてくれるだろうか?それとも当たり前だとか言ってくれたりもするだろうか?何時だって私に構ってくれる、笑顔で私を見てくれる、精一杯の優しさで包んでくれる。律、自惚れちゃうよ?いいかな?

「意外と元気そうじゃん」

安心した、とでも言うようにまだ突っ立ってる私の腕を引いて膝と膝の間にすっぽり。少しばかり体重を律に乗せれば腰に巻き付く腕。頬を緩ませ律のサラサラの髪の毛からカチューシャをゆっくり外した。

「馬鹿、見えない」
「前が?」
「澪が」

悪びれもなく言うな。少しは照れろ。馬鹿。本当に馬鹿。

「明日早く行くんだろ?」
「んー、」
「行かないのか?」

もう理由がないもの。ただ電話したかったために理由を作っただけ、淋しいから電話したなんて恥ずかしすぎて死んでも言えないと思った私が作った建前だよ、律。

「ぎりぎりまで寝る」
「なんだよ、」

ははは、と笑う。強く抱きしめられてとうとう律の膝の上に向き合う形で乗り上げてしまった。重くないのかな。言ったら言ったで「馬鹿か」と笑われた。前屈みになる自分の顔から照れた黒い髪が空間を遮断して小さな箱に私と律が入ってるみたい。

「愛してるよ、澪」

淋しいとか、そんなのどっか吹っ飛んじゃったよ。律。
重なる唇が離れて私も愛の言葉を呟いた。












20100813







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