けいおん

□私は
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空中に漂う塵を見て思う。   
私もこんな存在なんだと    


私は、君は……        








胸に残る蟠りにむせ返るような吐
き気を覚えた。昨日夜を共にした
女の縋り声だけが耳に根強く残っ
てしまって、それに苦渋するも、
必死に意識は黒板へ。――… 気
持ち悪い。どうしようもなく押し
寄せる吐き気に空気さえも吸いた
くない。あの苦さも嫌悪感も直ぐ
には忘れられないのだ。何時もそ
う。今もそうで、自分さえも傷付
いているらしいがそんなのおこが
ましいにも程があるだろう。脳の
奥からガンガンと響く、止めてく
れ。まるで咎められているようで
心はざわついた、それに免れよう
と机に伏せば「律」と少しばかり
低い声が頭上から聞こえてゆっく
り顔を上げた。        


「具合悪いのか?」      


言葉が喉の奥に引っ掛かって出て
はくれない。ただどうしようもな
いこの気持ちを溜め込むだけの私
を心配げに見る澪にだけは知られ
てはならない事実。……なんで、
なんで澪だけ?私はどうしたい、
どうありたいんだ。澪と自分の関
係を。どうせなら叫んでやりたか
った。この全てを吐き出すように
、それがお互いを傷付けたとして
も。             


「大丈夫…」         


なんとか言葉を繋ぎ止めたけれど
息を殺すようにして押し出たのは
苦し紛れの言葉で、結局はまた目
の前の彼女の顔を一段と険しくさ
せただけだった。       

「大丈夫じゃないだろ」    


静かに声を荒げて覗き込む澪の名
前を呼ぶ。すれば神妙な面持ちで
澪は恐る恐る私の頭を撫でて「…
何?」と優しく返答した。頭を撫
でる手から感じる温もりに鼻の奥
がツンッとした。泣けない。泣い
てはいけない。泣くなんて、許さ
れない。           


「ありがと」         


顔を持ち上げ澪の黒い瞳を見て笑
う。無理に笑ってることがばれな
いようにとびっきりの笑顔で。ご
めん、心中で唱えるように何度も
何度も辿る言葉が声になることは
なくて、その言葉に掻き消された
言葉は私の内の最も深い場所へ。
僅かに眉を寄せた、澪は溜息とと
もに私の茶色い髪を撫でつづけた
。              


「無理すんなよ」       
「おう、ありがと」      



気付かない気持ちがあるなら教え
て欲しいぐらいで、私は結局自分
を自分でコントロールがまだ上手
くできなくて、逃げることしか選
択肢がなかった。       








***








唯が後ろから抱きしめてきたので
私は声を上げた。嫌だったわけで
はなくて、人と触れ合うとか、そ
ういったことに疎いが為に瞬間に
来る自分への衝撃には対処が出来
ないのだ。顔だけを後ろに向けれ
ば満面の笑み唯が嬉しそうに私に
しがみついていた。      


「えへへ、驚いた?」     

そりゃぁ、驚くだろ。してやった
りという顔が私を見遣り、少し責
めるような口調で「当たり前だろ
」と返せば満足そうにまた笑った
。唯の人に馴れ合う人懐っこさに
最初はどぎまぎしてしまうもこう
いったところが唯の長所でまた人
見知りの私にはとても有り難い。
話しやすいし、優しいし。どこか
抜けてるというか天然なのか、ふ
と唯のの眉がだらし無く八の字に
下がった。          


「ねー、今日りっちゃんおかしく
ない?」           
「……うん」         


おかしい、…のだけど何もないよ
うに接する辺り私たちには言えな
いことなのだろう。人間なのだか
ら言いたくないことなんて沢山あ
るし、やっぱり私達はまだ出会っ
たばかりなんだからそれ相当の壁
があるんだと思う。      


「そっとしといてやろう?」  


歯列の隙間から出る空気を噛み締
めるように出した言葉に酷く落ち
込んだ。自分で言っといてと思う
けれど私は律にとってそこまでだ
ったのかな、とか何かあれば相談
して欲しいとか、やっぱり"友達"
として思うわけで……。どうしよ
うもなく律が心配で、一緒に居た
くて。            


「澪ちゃん?」        
「へ?」           
「大丈夫?」         

うん、と小さく頷くも唯がまた眉
をだらし無く下げた。そんなに酷
い顔をしていたのだろうか。律に
関することになると自分をコント
ロール出来ないらしい。その意味
さえ私は知ろうとはしない。友達
という枠での最高を目指せるなら
。              



ふと脳裏にムギの言葉が浮かんだ
。きっと深く考えてはいけないん
だ。昔からそうで、何かと全てを
深々に受け止め考えてしまう癖が
ある。誰にも相談出来ずに一人で
深く深く底へ。        



あー……誰か、助けてよ    













20100822











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